三代目❤夢小説(臣隆編sixth)『冬恋 65』
「幸運を…」
女性に見送られてガラスイグルーを後にした。
白い嵐は完全におさまっている。
真夜中なのか?明け方なのか?
一日中太陽が登らない極夜は、時間の感覚も麻痺させる。
そして過酷を極めるこの寒さだ。
降り積もった真新しい雪をかき分け、四方を見ながらどこへともなく歩く。
隆二を見つけたら、無事が確認できたら電話を借りて、明日美ちゃんに連絡を取り
ーナンバーは記憶しているーGPSでスノーモービルの位置を探って取りに行き、
いや、先にアイツが無事だったら、とにかく抱きしめて半日でもいい、
暖め合って休みたい。
無理言ってお借りして、酷い嵐の中、止むを得ず途中で乗り捨ててきて、
とても迷惑をかけてるけど、できればそうしたい。
ホテルイナリまで戻れるかな。
隆二、どこにいるんだ?
視線を感じてハッと振り返った。
雪が積もってできた小高い丘の上から、一頭のトナカイがこちらを見ている。
真っ白なトナカイ。
大きくて立派な角がある。
ツアーバスで遭遇したあの白いトナカイの様で、まったく違う個体にも思える。
鹿と違ってトナカイは雄にも雌にも角があるから、どちらか見分けがつかない。
こんな頻繁に遭遇するものなのか?
白い息を吐いて首を上下し「こっちに来い」と俺を招いているようにも見える。
ー白いトナカイに遭遇すると、良いことも悪いことも起こるー
白髭の老人が言った言葉がまた蘇った。
それでもその導きにすがる思いで、俺はトナカイが立つ丘へと向かった。
近くまで接近すると白いトナカイは身を翻して、走り去って行った。
「行ってしまった…」
走り去った方角に小さな小屋が見えた。
「もしかすると…」
俺は迷うことなくその小屋を目指した。
つづく
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