三代目❤夢小説(臣隆編sixth)『冬恋 64』
気持ちが落ち着いてからiPhoneを見ると充電が切れていた。
ご老人に聞いてみると、「充電器か…どれ、確か古いのがあったかの」と言って、またダンボールから探り出してくれた。
充電する間だけと思い、暖炉の側で休ませてもらった。
そのまま深く眠ってしまった様だ。
俺は多分夢と現実の狭間にいて、今回のフィンランド旅行のダイジェスト版ともいうべき回想シーンをスクリーン越しに見ている。
嫉妬から始まり、迷い、憂鬱になり、それでも構って欲しくて、
後を追ってきて抱きしめて欲しくて…
そうしたら本当にアイツが空港まで迎えに来てくれて、
そのまま一緒に、一旦はドタキャンした異国へと旅立った。
疲れていても眠ってなくても、臣は時に驚くほど大胆な行動をする。
どんなワガママも聞いてくれて、それでいて俺様で、エロくて、
限界を知らなくて…
人目もはばからずにスキンシップもしてくる。
女性にはめちゃくちゃモテるし、恋の噂も星の数ほどだ。
消えても消えても、後から後から湧いて出てくる。
映画公開の時期だって、少なくとも二人の女性との密会を噂されていた。
それだけ魅力があって、みんなが放っておかないんだ。
今日、GPSを頼って臣を探し出した女優さんだって、
臣のことが好きで…そう、雪で表情はよく見えなくても、声のトーンを聞けばわかる。
きっと愛の告白をして、その最中に予期せぬ白い嵐になって、
か弱い女性を一人で置いてけぼりなんかにはしない。
アイツはそういう男だ。
今も必死で守ってるかな?
彼女を一人雪原の嵐の中に置いて…そんなことは絶対にできない奴だ。
嵐がおさまって安全な場所に彼女を送り届けてから、
それから俺を探し回るに違いない。
そうしてくれている方が安心できる。
それとも何か向こうの状況が変化して、
この荒れ狂う白い嵐の中を脇目も振らずに、自分の身も顧みずに、
凍えそうになりながら、足を取られながら、
それでも前へ前へ、
たった一人で俺を探して彷徨っているとしたら?
そのまま遭難でもして…二度と会えなくなってしまったら…
考えれば考えるほど、早く臣を探しに行きたくて、
胸が苦しくなるのに、
カラダがちっとも言うことをきかなくて、もどかしくて…
…もう一つの選択肢で、俺がすでに避難してると信じて、
臣もどこかで嵐をやり過ごしているかも?
今はそう信じていたい。
そういえばツアーバスの中で、あれは白いトナカイと遭遇する前に、
なんか耳元で言ってたな、臣。
古いバスの大きなエンジン音でよく聞こえなかったけど…
こんな事になるなら、離れ離れになるのが予測できたなら、
サカるな、なんて邪険にしなくて、臣のやりたい事全部、
好きにやらせてあげれば良かった。
臣の願望は、そのまま俺の願望だから。
充電できたら電話してみよう。
スクリーンで繰り広げられていた回想シーンも終わった。
暗闇に鳴り響く着信音で飛び起きた。
やっぱ夢見てたんだ。
髭のご老人は立ち上がって携帯で話している。
「おお、そうか!嵐も過ぎたようじゃ、今から様子を見てくるでの」
誰と話してたんだろう。
オーロラ観測の仲間かな?
「起きたか?よく眠っておった」
「ありがとうございました、俺、行かないと…」
「悪いがもうひととき待ってくれんか?」
「はぁ…」
「風速計を調べに行ってくる間、留守番を引き受けてくれんかの」
「あの…」
「いや、はやる気持ちはわかるが、ほれ、そこに温かい食事を用意してあるから、
それをすっかり平らげる頃には戻ってくる」
「多分小一時間で戻ってこれるから、頼んでいいか?」
遭難しそうだったところを親切に助けて下さったんだ。
断ったりなんてできない。
「わかりました、じゃあ遠慮なく、いただきます」
「うむ、頼んだぞ」
「誰か訪ねてきたら中に招いていいからの」
ご老人はそう言うと真っ白な防寒を着込んで、携帯だけ手にして足早に小屋を出て行った。
つづく
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