三代目❤夢小説(臣隆編sixth)『冬恋 58』
移動する間に少し風が緩くなってきた。
オーロラ小屋と呼ばれた小さな丸太小屋に辿り着き、防寒コートのフードを外し、ネックウォーマーの中から現れた顔には見覚えがあった。
HOTELイナリで俺たちに声を掛けてきた、
ツアーバスで臣の真後ろの補助席に座っていた白い髭のご老人だ。
豊かな髭は真っ白だが、精悍な印象で歩く速度がとても早い。
思ったよりお若いのかな?
小屋に入ってからもテキパキとランプを灯し、暖炉に火を起こして分厚めの毛布を引っ張り出してきた。
「すぐに湯が沸くから、その濡れた防寒を脱いで、この毛布にくるまって暖をとりなさい」
カラダが冷えきって震えが止まらない。
「あ、ご親切に、ありがとうございます」
「挨拶はいいから、早く暖炉の傍で温まりなさい」
言われた通り、雪で濡れた防寒の上下を脱ぎ、お借りしたハンガーに掛けて、俺は毛布にくるまり暖炉の傍に座った。
やがて寒気もおさまり、部屋の中を見る余裕が出てきた。
パソコンやHDD、天体望遠鏡に三脚に一眼レフ、ビデオカメラもある。
本棚には天文学や地理の分厚い本が並んでいる。
学者か、研究者なのかも。
柔らかいブレンドの香りが漂ってきた。
「温まるから、飲みなさい」
「あ、これ、ミーのマグカップ…」
「ああ、新作だからこっちに着いた日にスーパーで見かけて気に入っての」
好みが俺と一緒で、なんだか嬉しくなった。
温かいマグを傾け、ゴクゴクと一気にやった。
「美味しい…」
「ははは、私のオリジナルブレンド、気に入ってもらえたかな?」
「美味いです。おかわりしてもいいですか?」
「もちろん」
二杯目のマグカップを両手で持ち、体育座りして話しかけた。
「日本の方、ですよね?こちらへは研究か何かで?」
「地球のオーロラベルトに沿って、世界の各地で研究している者じゃ」
「世界とは言っても、北の極寒の地域にしか滞在せんが…」
「俺たちと同じツアーバスに乗ってましたよね?連れがそう言ってました」
「あの目力のある彫りの深い青年じゃな?」
「はい、その目力の奴です」
「なかなか礼儀をわきまえた好青年じゃった」
「君は、白いトナカイを見て、前方で子供の様に無邪気にはしゃいでいた青年じゃな」
「いや、お恥ずかしい限りです」
「素直で、心の綺麗な人間だと、そう思って笑っておった」
「いつもツアーバスを利用するんですか?」
「サーリセルカからイナリに向かう交通の便が少ないのと」
「年中自然ばっかり相手にしてるから、人間観察も兼ねてな」
「そうでしたか」
「お連れさんとは湖上ではぐれたのかな?」
「いえ、はぐれたというか、自分から身を引いたというか…」
「でも今は、一瞬でも離れた事を後悔しています」
「このまま、永遠に会えなかったら…どうしようって…」
「うーむ…」
白くて長い髭をほぐしながら、真っ直ぐに俺を見て言った。
「あの青年が、君の運命の人なら…」
「自ずからここに辿り着くだろう」
「”魂が惹き合う相手”とは、そういうものでな、理屈では説明がつかない」
「長年連れ添った、いつも喧嘩が耐えない老夫婦が」
「お互いに飽きてしまって、顔も見たくないと思っているのにも関わらず」
「ワザと時間をズラして家を出て、会わないように遠回りの道を選んでも、街角で必ず見かけてしまう。しかも外出の度に毎回じゃ」
「切りたくても切れない”腐れ縁”というのは、良くも悪しくもその相手が自分にとって運命の人であるという証なのじゃ」
「ずっと一緒に暮らしていると、行動パターンが似てくるから、会いたくなくても鉢合わせしてしまう、という説もあるがの」
ワハハと豪快にかつ、どこか品の良さも感じさせながら愉快そうに笑った。
ガタガタと小屋が軋む様な強風がまた吹いてきた。
「こんな暴風雪の中、とてつもなく広大な湖で、ここを探し出せますか?」
「うむ 」
「…聞こえんかの。エンジン音が遠くから近づいてきたようじゃ」
つづく
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2021.02.18 03:38
2021.02.18 03:00