三代目❤夢小説(臣隆編sixth)『冬恋 54』
2~30分は続いただろうか。
風の吹き荒ぶ方向に激しく流されていた彼女の長い髪が、重力に沿うようにバサッと下に落ちた。
風が少しマシになった。
「大丈夫?ケガはないか」
「登坂さんが守ってくれたから平気…」
二人とも全身が雪まみれだ。
彼女の頭や肩に積もっていた雪のかたまりを手で払いのけた。
「ありがとう」
「…相変わらず、優しいね」
「俺、急いで行かなきゃ」
だけどこの降りしきる雪の中、彼女を一人置いていくわけにもいかない。
どうすれば…
彼女が俺の両腕を掴んだ。
「今市さんのことが気になるんでしょ?」
「すぐに行ってあげて!私なら大丈夫だから」
「ごめん…俺の」
「とても、とても大切な人なんだ」
アイツの身が心配で息が苦しい。
でも、また風が強くなったら…
いったいどうすればいいんだ!
どこからともなく数台のエンジン音が、またこちらに向かってきた。
「明日美さぁーん‼登坂さーん!どこですかー‼」
「スタッフだわ…ここよー‼」
先に博物館へ向かっていた撮影スタッフが戻ってきてくれたようだ。
スノーモービルを降りてこちらに駆け寄ってきた。
「さっきのホワイトアウトですよね!?俺たちも、もうこれで終わりかって覚悟しましたよ」
「大袈裟なんだよ、ったく…」
「ただいつまた風が強くなるかもしれないので、今のうちにどこか近くの建物の中に避難しましょう!」
「あの!スノーモービル1台お借りできませんか?」
「え!?」
「今市さんが一人で別の場所に行って戻ってきてないから、貸してあげて下さい!私からもお願いします‼」
明日美ちゃんも頭を下げてくれた。
「登坂さん免許は?」
「普通免許なら持ってます」
「それなら公道も走れますね!早く行ってあげて下さい」
「ありがとう‼お借りします」
助かった…
急いでスノーモービルに跨りエンジンをかけた。
「明日美ちゃん、話の途中でごめんな」
「また今度でいいから、早く!」
「うん…ありがとう」
最後に自分が絞り出したのは、なんだか泣きそうな悲しい声だった。
相方の身が心配で胸が張り裂けそうだ。
「登坂さん‼」
明日美ちゃんがハンドルを握る俺の手に手を重ねて言った。
「やっぱりもういいわ」
「え…?」
「大好きな登坂さん、お幸せに」
彼女はスタッフに聞こえないように、俺の耳元で小さくそう囁いた。
つづく
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2021.02.14 04:14
2021.02.14 03:08