『W旦那+(プラス)』 三代目妄想劇場 番外編(新生41)
外苑前駅から徒歩2分、南青山の一角にある画廊で5時に待ち合わせした。
「臣には内緒で…」
隆二のその言葉だけで廉は、何日か眠れない夜を明かした。
画廊にはまだ、隆二の姿はなかった。
鏡のように磨かれたショーウィンドウに自分の顔を映してみる。
「うわ、酷い顔だ…クマできてる」
ショーウィンドウ越しに隆二の姿が見えた。
電子タバコをふかしながら、渋い表情でこちらに向かってくる。
その目は真っ直ぐに廉だけを見つめている。
それだけでへなへなと、腰から崩れ落ちそうになった。
いつの間に、こんなに好きになってしまったんだろう。
相手が同性でも、走り出した想いは止めようがない。
以前、理愛が話していた。
私たちの種族は子孫を残すために、手段を選ばない傾向がある。
たとえ相手が異星人であっても、更に同性であったとしても、一度好きになったら目的を果たすまでは決して諦めない。
多分、遺伝子レベルでそう行動するように刷り込まれているのだと。
刷り込まざるを得ない位に、母星の少子化は深刻な問題のようだ。
恋の相手が異星人の上、同性であったとしても、母星にはお互いの性を混ぜ合わせて、人工的に受精させる事ができる高度な文明がある。
同性同士の子供も望めるのだ。
最初はただ、乃愛の影響を受けただけだと思ってた。
乃愛の淡い恋心が、自分に伝染しただけで、時が過ぎれば薄れていくに違いない。
実際に映像ではないリアルな隆二と会ってみて、更に想いは強くなった。
大切な人や家族がいると解っていても…
一緒に過ごす時間が長くなるほど、思いは募るばかりだった。
「こんばんは」
「待った?」
「いえ、さっき着いたばかりです」
まともに目を合わせることが出来ない廉は、ゆっくり視線を落とした。
大きくはだけた黒いシャツの胸元に、ゴールドのチェーンが揺れている。
『俺の隆二に手を出すなよ』
あの時の、臣の台詞が脳裏をよぎった。
「入ろ」
隆二に促されて後に続いた。
これは、略奪愛なんかじゃない。
隆二さんと、ただ絵を見に来ただけだ。
次の瞬間、我が目を疑った。
隆二が振り返って、廉の手を握ったからだ。
つづく
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2020.05.14 23:25
2020.05.14 23:03