臣隆妄想劇場③(修正版)
『抱擁』
えっ?
おれ…今、隆二に誘惑されたの?
あの時がラストだって決めてたのに…
お前とはまた最高の相方に戻って、
ツアーに臨もうって…
まともに顔を見たら、その決心も揺らぎそうだったから、極力顔を合わせないようにして…
だけど、変だよ…
酔ってるからって、何でお前から誘ってくるの?
隆二「なに?しないの?臣…」
臣「…」
隆二「こんな状況でも無視すんのかよ!」
隆二が俺の首に左手を回して言った。
「はい!ど〜ぞぉ!」
アヒルのように唇を尖らせる。
俺は少し困って返した。
「どうなっても知らねぇぞ」
俺の方から唇を合わせようとすると、
数秒早く迎えがやってきた。
こいつ…マジか?
軽いヤツなんかじゃない。
くっついては離れ、またくっついて、
深いところで絡み合っていく。
どうにも例えようがないくらい、
心が満たされていくのがわかる。
ヤベェ…止まらなくなる。
さすがに息が苦しくなってきて、
空気を求めて唇を離してみると、
「くか…」と、あり得ない音を発して、
気持ち良さげに隆二が落ちていく。
落ちて……⁉️
「…かーっ…」
かーって…こいつ…寝てるし…
これって、目が覚めたら完璧に覚えていないパターン?
「隆二?」
ペチペチと軽く頬を叩いてみても反応なし…
「かー…」
完全に眠ってる。
しばらくそのまま沈黙が続いた。
「やれやれ…」
ソファから立ち上がり、
隆二をおぶってベットまで運んだ。
移動中に可笑しくなってきた。
髭生やした野郎を、お姫様抱っこは流石にないだろ?
そっとベットに寝かせ、
自分も倒れこむようにうつ伏せに寝っ転がる。
隣を見ると、仰向けで大の字になって、くーかー言ってる隆二がいる。
こんな甘いご褒美が貰えるなら、たまに無視すんのもいいかもな。
自分の手首をハムっとしながら、
しばらく隆二の寝顔を見つめる。
スッと手を伸ばし、隆二の唇に親指を這わせる。
今は俺だけのもの…
ゆっくり上半身だけ起こし、
隆二に軽くキスをした。
でも、これ以上何かするつもりはない。
そういうんじゃないから…
急に睡魔が襲ってきて、
ベットに突っ伏して目を閉じる。
満たされた時間がゆっくり過ぎていく。
『躊躇』
「隆二!起きろ❗」
臣の声で目が覚めた。
「マネージャーがエントランスまで来てるって‼早く支度しろ!」
慌てて飛び起きる。
頭がズキズキと痛む。
隆二「痛てて…なんで?今日オフじゃ…」
臣はジーンズを履きながら慌ててる様子で言った。
「お前飲み過ぎだよ」
「昼から急な打ち合わせ入ったって!」
「え?聞いてないよ!そんなの」
「昨日の夜遅くにLINE送ったそうだよ」
昨日の夜?
「とにかく早くしねぇと…ほら❗」
俺のワンショルダーバッグと、キャップを軽く投げてきた。
ボーッとベッドに座ったまま、臣を見上げる。
「臣…髪ボサボサ…」
「ニット帽被って行くから大丈夫」
急いで身支度を整え、二人で玄関に向かった。
「なんで臣ん家にマネージャーが来てんの?」
「もう集合時間とっくに過ぎてるから、慌てて迎えに来たんだろ」
「え?…それヤバいよね?」
スニーカーを履き立ち上がると、
後ろにいた臣が「隆二」と呼び掛けた。
「ん?」と振り向くと、
斜め掛けしていたショルダーを引き寄せ、臣がキスをした。
「なっ…!?急に何すんだよ!」
「お前、酔ってたなんて言い訳聞かないからな」
言葉が出てこない…
数秒見つめ合ってると、ピンポーンとインターホンが鳴った。
エントランスからだ。
「あ!今降ります!」
「行くぞ!」
臣は俺のショルダーを引いてエントランスへ向かった。
打ち合わせの後、NAOTOさんから軽く注意があった。
「仲がいいのは結構なことだけど、
二人して大遅刻って、どーいうことかな?」
「すみません…」
二人並んで下を向き、神妙な顔をした。
直人「次のスケジュールが詰まってるメンバーもいるから、以後気を付けてね」
俺達の様子を見て、それ以上は何も言わないで、NAOTOさんは部屋を出ていった。
横で見ていた健ちゃんがすかさずツッコミを入れてくる。
「珍しいやん!隆二が臣ちゃんの所にお泊まりって…」
ドキッとした。
健二郎「なにしとったん?」
隆二「こっ…こっ…怖い映画見てたんだよ!」
明らかに動揺して答えた。
健二郎「お前、声上ずっとるで」
慌てて水を飲む。
すると、それを顔色一つ変えずに見ていた臣が言った。
「知らなかった?健ちゃん。俺ら同棲してんだよ」
ブーツ!
口に含んだ水を吹き出した。
「冗談キツいで!臣ちゃん。隆二もなに動揺してるん?」
健ちゃんが俺の肩をポンと叩いた。
臣「もしそうだったらウケるっしょ?」
健二郎「ツインボーカルが同棲って…アカンやろ~!それ、ファンが喜ぶやんか❗」
臣「そうなの?」
臣はコーヒーを口に運ぶ。
健二郎「臣ちゃん知らんのか?臣隆に萌えるファンも沢山おるんやで!」
臣「へーっ…」
さすがに臣…少しも動じてない…
健ちゃんと明るく話をする臣の横顔を見ながら、俺は思った。
昨日は酔っ払ってたけど、うっすらと覚えてる…
最初っからずっと一方的にヤられっぱなしで、
なんか腹立つし、
酔いに任せてその気になってしまった…
けど…
舌は駄目だろ?…舌は…
左手で頭を抱え、指の間から臣を見た。
健ちゃんと話をしながら、臣はチラッと目線をこちらに向ける。
あの台詞が甦る。
「お前…酔ってたなんて言い訳聞かないからな」
俺は口を尖らせ剥れた顔をしてみせた。
ニコッと臣が笑顔で返した。
これからどうなんのかな?俺たち…
ずっと無視されるくらいなら、
キスぐらいって思ってたけど…
それで満足なのかな?臣…
そんな俺の躊躇する気持ちを知ってか知らずか、
美味そうにコーヒーを飲み干す臣だった。
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2019.10.05 11:05
2019.10.05 10:53