臣隆妄想劇場②(修正版)
『距離』
隆二のマンション。
薄暗いリビングで、怪しく蠢く男女の影…
「WASTED LOVE」の映像が大画面に映し出されている。
ソファに深く腰掛け、顎の辺りを軽く触りながら画面を見つめる隆二。
映像の中で美しい男女は何度も唇を重ね、官能的な表情を浮かべている。
どれくらい時間が経ったのか?
気がつくと、カーテンの隙間から明るい日差しが差し込んでいる。
部屋を見渡しても臣の姿はない。
両脇と足の付け根に当ててあった大きめのペットボトルは、どこにも見当たらない。
ベット脇のサイドテーブルには、ワインクーラーの中に、小さめのペットボトルが2本用意されてある。
よく冷えているようで、水滴がびっしりとついている。
汗で濡れた衣服や、タオルも綺麗に片付けられていた。
臣…ずっと付いててくれたんだ
人の気配がしないところをみると、
もう帰ったんだろう。
夢の中で「WASTED LOVE」の映像が、何度も何度もリピートされていた。
唇をツンとして、相手役の女性と優しくキスをする臣。
何度か二人が交わる光景をみていると、
いつの間にか女性と自分が入れ替わっていて、臣と唇を重ねている。
感触がやけに生々しい…
目が覚めてから改めて映像を見てみる。
艶のある透き通った歌声が部屋中に響き渡り、映像と夢がリンクする。
なに?…この感情?
どうすんの?これ…
いきなりスマホが大きな音を立て、
ビクッとする。
しまった…!音量MAXにしてた。
…臣からだ。
臣『明日のリハ、大丈夫?』
臣『マネージャーが迎えに行くんだろ?』
隆二「うん、大丈夫だよ」
臣『ん…じゃまた明日』
隆二「あっ…臣!」
臣『ん?』
隆二「昨日はありがとう」
臣『うん…切るよ』
意外に素っ気なく通話が切れた。
なんか…拍子抜けする。
いつもと変わらない臣なのに…
なんで俺、こんなに動揺してんのかな?
気を鎮めるかのように水を一口飲み、チラッと画面に目をやる。
恋人が去り、悲しい目をする臣が画面いっぱいに映し出される。
全て夢だったのかな?
いや…間違いなく残ってる。
あいつの感触…
翌日、メンバーが揃って、ツアーの打ち合わせの後にリハがあり、臣とは殆ど話をしないまま夜になった。
健二郎「隆二!メシ行かへん?」
健ちゃんが誘ってきた。
隆二「悪りぃ!健ちゃん。俺ちょっと臣に用事があって…」
健二郎「臣ちゃんやったら、さっき
がんちゃんと帰りよったで」
隆二「えっ⁉️マジで?ちょっと追いかけてくる」
健二郎「おう」
急いで臣の姿を探すと、長い通路の遥か向こうに二人の姿があった。
隆二「臣…」
「あ!隆二くん‼️ソロのジャケ写の事で、打ち合わせしたいって!」
マネージャーに後ろから呼び止められた。
隆二「あっ…はいっ!わかりました」
出口の方を見ると、もうそこには臣の姿はなかった。
追いかけていって、何を言うつもりだったのか?
ただありがとうって言いたかっただけ?
いや…違う。
初めのアレ…
あの時、臣シラフだったんじゃ?
そう聞きたかった。
そうだよ!…って返事が返ってきたら、その後どう言うつもりだったのか?
おれ、お前とはそういう関係になりたくないから…
もう、ああいう事ヤメてね。
んー…ちょっと違うか?
いつから?
そう…いつから?…って聞いてみたい。
ELLYやマツさんと、飲み会で半分ふざけてするキスとは違う。
健ちゃんとがんちゃんが、カラオケでするやつとも根本的に違う。
俺だって、恋愛経験くらいあるもの。
自分に好意を持ってくれている人からのキス…
本能で判るって。
夢の中で臣と交わした生々しいキスも、現実にされてたんじゃ?
翌日もメンバー全員でリハがあったが、歌合わせはしても、ほとんど臣と会話を交わさなかった。
交わさなかったんじゃないな。
臣、俺のこと避けてる?
昼間、デリバリーのお惣菜を皿に盛っていた臣に近寄り、「あのさぁ…臣」と小さく声を掛けると、
「あっ!がんちゃん!俺もコーヒー」
と言って、すぐにその場を離れていく。
聞こえなかったのかな?
衣装合わせの時もだ。
臣「あ!健ちゃん、そこの白いジャケット取って」
健二郎「ん?ああ待ってや!」
ジャケットを掛けてあるラックの側に、俺立ってんのに…
何でわざわざ遠い所にいる健ちゃんに言うの?
健ちゃんも、俺と臣の顔を交互に見て不思議そうな顔してる。
歌合わせの時もだ。
隆二「臣?次のパートなんだけど…」
臣「悪い!俺ちょっとトイレ…」
お前さっきトイレ行ったばっかりじゃん!
戻ってきたので、また声を掛けようとすると、今度はELLYが、
「おーみ!ここのラップだけど、 ちょっと聞いてくれっ!」って声を掛けた。
臣「おーっ!いいよっ‼️納得いくまで付き合うよ!」
ELLYと仲良く肩組んで別の部屋に消えてった。
隆二「臣!あのさ…」
スイ〜ッと臣が通り過ぎていく。
隆二「臣…」
スイ〜ッ…
明らかに俺だけ避けてるだろ?
ちょっと待った‼️
いくら優しい俺でも、限界があるぞ‼️
隆二「臣ってば‼️今夜あいてる?」
人目もはばからず、大声を出してしまった。
臣「えっ?…今日は野暮用がある」
何だよ!野暮用って…
隆二「明日は?」
臣「明日はメンバー飯じゃん」
すっかり忘れてた。
臣「約束があるから、もう行くよ」
冷たい表情をして、去ろうとする臣。
隆二「あっ…明後日は?」
臣「…」
横顔だけこちらに向けて黙っている。
隆二「あ…空いてる日またメールしてよ」
「急がないから…」
臣「…明後日の夜…うちの家で良ければ」
隆二「明後日ね!わかった」
臣の瞳に怪しい光が宿った。
『誘惑』
「いま開けるから」
ドアが開くと、不機嫌そうに臣が出てきた。
上半身裸でタオルを首から巻き、
髪も濡れている。
隆二「え?風呂入ってたの?」
俺が来るの判ってるのに?
臣「うん…で、なんか用?」
プンと酒の匂いがする。
隆二「用がなきゃ来ないよ。ここじゃなんだし、中入っていい?」
臣「ふーん…いいよ」
ふーんじゃねぇよ!めちゃ機嫌悪いし。
あの目を見てるだけで、気持ち折れそう…
リビングに入るとすぐに切り出した。
隆二「臣…なんか怒ってんの?最近ずっと俺のこと避けてんじゃない?」
臣はこちらを見ないで、冷蔵庫から缶ビールを出している。
臣「別に…気のせいでしょ?」
隆二「ちゃんと俺の目を見て言ってよ」
臣「なんだよ?それ…」
パタンと冷蔵庫のドアを閉め、スタスタと俺の前まで歩いてくる。
臣「飲むだろ?突っ立ってないで荷物置けば?」
ほんとだ。
なに突っ立ってんだ?俺…
真正面に臣の顔があり、さらに近づいてくる。
臣「目、赤いよ」
そういや2、3日まともに寝ていない。
さらに、鼻先がくっつきそうな位、顔を近づけてきた。
臣「えーと…なんだっけ」
「…ああ…気のせいでしょ?」
言うだけ言ってくるりと踵を返し、
ソファにどかっと腰掛けた。
ダメだ…挫けそう…
臣「座れば?」
はい…そうします。
肩に斜め掛けしていたバックを下ろし、向かいのソファに腰掛ける。
プシュッ!…と、いい音をさせて缶を開け、ビールを一気に飲み干す臣。
隆二「いただきます」
臣「変なヤツ…」
ほんと、変だよ俺たち…
ついこの間までソファに並んで座り、ツアーのことやメンバーのこと、
いつものように語ってたのに。
俺が暑さにやられてぶっ倒れた時も、なんだかんだ言いながらも、一緒に居てくれたのに。
ジーッと臣の顔を見る。
臣「なんだよ?」
グイッとビールを一気に飲み干す。
シラフじゃ本題に入れそうにない。
隆二「もう一本くれ!」
臣「好きなだけ飲めば?明日休みだし」
隆二「ん…そうする」
臣ん家の冷蔵庫や食品ストッカーの中は、どこに何が入ってるか、だいたい把握している。
お互いの家を行き来しなかったのって、別行動で海外に行ってた時くらいだろ?
両手で持てるだけの缶ビールとおつまみを下げてくる。
缶ビールを立て続けに3本流し込む。
その間会話はない。
臣は目を丸くして見ている。
臣「喉乾いてたの?」
そういう問題ちゃうわ!
4本目…
臣「おーっ‼️いい飲みっぷり」
臣…久しぶりに俺に笑顔を見せた。
臣「テキーラもあるけど、いっとく?」
隆二「ああ!よこせっ‼️」
臣「面白れぇな、お前…」
テキーラがヤバかった…
一杯目でガツンときた。
俺こんなに酒弱かったっけ?
そうじゃねぇよな…
寝てないからだ…きっと
おっ…臣が三重に見える…
臣「で?話ってそれだけ?」
え?あっ…そうだ!
臣と話に来たんだ…
えっと…なに聞くんだっけ?
何であの時キスしたの?
酔ってたの?
正気だったの?
…お前、俺のこと好きなの?
そうだっけ?
そう聞くんだっけ?
ヨロヨロと臣の座るソファまで来て、隣にドスン!と腰を下ろす。
臣「なに?」
隆二「……」
隆二「おれ、お前のことが好きだ!」
臣「⁉️」
沈黙の後、パッと臣の表情が明るくなった気がした。
隆二「だから無視すんなよな!寂しいだろ!」
隆二「いつも一緒にいるのに、急にツレなくすんなよ!」
臣「…隆二」
隆二「人が具合悪いって寝てる時に、勝手にキスすんな!」
臣「えっ⁉️…意識あったの?」
隆二「やるんなら堂々とやれ!」
臣「お前…酔っ払って…」
グイッと臣の顔を引き寄せ、俺を下にしてソファに倒れこむ。
臣「…⁉️」
「臣…キスしてよ…あの映像みたく」
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