『W旦那+(プラス)』 三代目妄想劇場 番外編(楽屋裏⑳)
名古屋ドームを出て、長島温泉へ向かうタクシーの中で、隆二がポツンと呟いた。
「俺はたっくんがいれば、それで十分満足だ」
臣は隆二の顔をちらっと見てから、移り行く風景に目を向けた。
「…隆臣だって、いつかは巣立つぞ」
「わかってるよ!そんなことくらい」
声を荒げた隆二に驚いて、ドライバーがバックミラー越しに二人を見ている。
「何をムキになってんの?」
「あーちゃんって呼んだ」
「へ?」
「ずっと離れて暮らしてるのに、会えばすぐに距離が縮まるんだ」
「隆臣と理愛のこと?」
「生まれた時からずっと一緒だったんだ。
たっくんの中で理愛は永遠に”あーちゃん”
なんだよ」
「そりゃミルクやオムツの世話も全部してくれた女性(ひと)だもんな」
「たっくんにとっちゃ、たった一人の”あーちゃん”なんだ。過去も未来もずっと…」
「なに?理愛に嫉妬してんのか」
「いつか…」
「お?反論してこない」
「いつかね」
「なんだよ?」
隆二は車の窓から空を見上げた。
「あーちゃんと一緒に、育った星に帰るって言ったら…」
「隆臣の育った星は地球だろ?」
「生まれたのは理愛ちゃんの母星でしょ?」
「そんなこと気に病んでたのか…」
「仮に理愛が一緒に帰ろうって誘ったとしても」
「……」
「パンマンいないでちょ?たぁくんやーら!いかなーい…って言うに決まってる」
「真剣な話してんのに、茶化すなよ」
「マジか?…本気でそんなこと心配してんだ、お前」
「…夢を見たんだ」
「どんな夢?」
「たっくんが行方不明になった時に見た夢でさ」
「うん」
「たっくんが俺に言うんだ」
「パーパ、たぁくんもっと大きくなってから帰ってくるよって」
「それで?」
「何でそんなこと言うの?って、悲しくて混乱している俺に、今度は臣が言うんだ」
「なんて?」
「隆臣がいなくなっても、俺が側にいるから寂しくないだろ?…って」
「正論だ」
「で?お前はなんて答えた?」
「たっくんのいない未来なんて考えられない」
「……」
「もし、たっくんがいなくなったら」
「今の生活を続けるなんて無理だ」
「そん時は…」
「臣とも別れるよ」
完
次回の番外編更新まで、しばらくお待ち下さい。
いつもご愛読いただき、ありがとうございます。
4コメント
2019.06.20 02:22
2019.06.20 02:17
2019.06.20 01:32