『W旦那+(プラス)』第55~56話 (社長宅)三代目妄想劇場

結局その後、臣と隆二は剛典達を完全に見失ってしまい、リタイア出口から退場した。


小一時間ほど何も語らず、外のベンチに座ったままでいる。


突然臣のスマホが鳴り、ハッとする二人。


がんちゃんから、理愛を無事に社長宅へ送り届けたと報告のメールが入った。


隆二「なにやってんの?俺たち…」


臣「……」


隆二「どういうつもりだよ」


臣「お前だって…」


隆二「どうすんの?理愛ちゃんのこと」


しばらく考え込んでいた臣が、


「手っ取り早い方法がある」と言い、隆二の腕を掴み、


「社長の家に行くぞ」と歩き出した。





社長の自宅に行くと、妻が出迎えた。


「あら?お揃いで珍しい」


隆二「夜分にすみません」


臣「理愛、部屋にいます?」


「え、お風呂も済ませて休んでるんじゃないかしら?」


「何か急用?」


臣「はい…すぐ済みますから」


一礼して、廊下の突き当たりにあるゲストルームへと足早に進んで行く。


首を傾げて二人の後ろ姿を見ている妻に、
「あ…もう休んでて下さいね」と臣が声をかけた。


隆二「何する気?」


臣「俺に任せとけって」


ゲストルームのドアをノックする臣。


臣「理愛?起きてる?」


理愛「あ…はい、旦那さま」


臣「中に入ってもいい?」


理愛「え?あ…少しお待ち下さい。」


顔を見合わせる臣と隆二。


隆二「臣…手荒な真似だけは…」


臣「わかってるって」


ゆっくりドアが開き、白い光と共に理愛が姿を見せた。


冷たい空気が顔に触れる。


理愛「隆二さんもご一緒で…」


シルクのナイトウェアを着て、上からカーディガンを羽織っている。


心なしか、少し慌てたような感じがした。


臣「入るよ」


隆二「うわっ…さむ…」


見ると窓が開きレースのカーテンが風に揺れている。


隆二「理愛ちゃん、寒くない?」


理愛「あっ…お風呂上がりで少し空気を入れ替えてました」


室温は10°前後だろうか?


背中がゾクゾクする。


音も立てずに窓を閉める理愛。


カーテンに添えた手は、透き通るように白い。


臣「理愛、ベッドに座って」


臣は近くにあった椅子を二つ並べる。


理愛はベッドに腰掛け、すぐ前に臣と隆二も座った。


隆二「臣…」


臣「お前は黙ってろ」


隆二「……」


臣は肩に下げていたバッグのチャックを開けながら、


臣「理愛、今日がんちゃんと怖ーいアトラクションに行ったんだって?」


理愛「え?…はい」


臣「知らないと思うけど、ああいう作り物のアトラクションでも、稀に実際のゴーストが人間に取り憑いて、家までついてくることもあるんだ」


理愛「……」


臣はクロスと聖水が入った瓶を取り出す。


理愛の細い眉が、少し動いたように見えた。


隆二「臣…ちょっとまっ…」


臣「黙ってろ」


きっ…と、キツい目をして隆二を見る。


臣「だからね。日本で言うお祓(はら)いの意味を込めて、ちょっとおまじないするよ」


理愛「は…い」


隆二(いきなり?)


臣は「これ持ってろ」と、隆二に聖水の瓶を持たせる。


「理愛は目を瞑(つむ)ってて」臣はそう言うと、理愛の額になんの躊躇もせず、大きなクロスを押し付ける。


しばらく沈黙があった。


何も変化はない。


理愛「あの…?」


臣「まだ目を開けちゃダメだよ」


臣は隆二の手から聖水の瓶をひったくるようにして蓋を開ける。


隆二(クロスはクリアしても、聖水は…)


隆二が目の前でしっかりと瞼を閉じている理愛の顔を見る。


隆二(この場で灰になるとか、マジで無理…)


「臣!ちょっと待って…」


隆二が臣の手を掴もうとすると、数秒早く臣が理愛の美しい手に聖水を垂らした。



End

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