『憂鬱⑨』(続•臣隆妄想劇場74)ショートバージョン

「はい‼︎カーーット‼︎」



監督のOKが出た。



「登坂くん、お疲れ!今日は気合入ってて良かったよ!」



「ありがとうございます」



臣は、見る人全てを魅了する、いつものとっておきの笑顔で答えた。



すぐ横でマネージャーはホッとした表情をしている。



臣は、誰に言われたわけでもないのに、撮影現場の隅に立つ隆二の姿を見つけた。



機材の片付けで慌ただしく動くスタッフの間を通り抜け、臣はまっすぐ隆二の前までやってきた。



「来てたの?」



「うん…特別にマネージャーが許可を取ってくれてね」



臣がマネージャーの方を見ると、笑顔でVサインを送っている。



臣はひょこっと頭を下げた。



隆二の方を向き直すと、
「一発OKだったね」と満面の笑顔を臣に見せた。



臣「帰ろっか?」



隆二「ん」



言葉は少なくても、お互いの心は通じ合っている。



臣と隆二はダウンジャンバーを羽織り、ニット帽とマスクをつけて、街中を並んで歩く。



臣は隆二の手をしっかり握りしめ、自分の左ポケットの中に入れている。



隆二「あれ?家(うち)こっちだよ」



臣「見せたい物があるんだ」



続く

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