『W旦那+(プラス)』第36〜37話 (臣のマンション③)三代目妄想劇場
鼻をくすぐるいい香りがして目が覚めた。
眩しい陽の光が窓から差し込んでいる。
(えっ?おれ風呂入ってて…)
上半身だけ起こして自分の体を見てみる。
シルクのパジャマを着て、髪もキレイに乾いた状態で布団の中に座っている。
ベッドルームのドアが少し開いていて、キッチンの方からコーヒーのいい香りが漂ってくる。
(夢…見てたのか?)
(でも、確かに俺風呂入っていて…)
ノックもせずドアが開き、エプロンをつけた理愛が入ってくる。
「旦那さま、お目覚めですか?」
「理愛…俺いったい…」
「お疲れだったのでしょう」
「お風呂から上がられて、バスローブのままベッドに突っ伏してお休みになられたので、お着替えとドライヤーをお手伝いしました」
「…おれ、風呂で倒れてたんじゃ?」
「いえ…とても眠そうでしたが、バスローブをつけて上がってこられましたよ」
まったく覚えていない。
「理愛…風呂に入ってこなかった?」
「…先に入浴を済ませてから、バスルームには入ってません」
(全部夢だったのか?)
「朝食の準備ができておりますので、熱いうちにどうぞ」
「うん…」
どうにも腑に落ちないことが多く、首を傾げながらベッドから立ち上がろうとする。
一瞬、軽い目眩(めまい)があり、前によろける。
すぐに理愛が前に回り、臣の体を支えた。
「旦那さま、もう少し休まれていた方が…」
「ああ…軽い貧血みたい。食事を取れば治るだろ」
額の辺りを押さえながら、臣が言う。
「理愛…こんなガタイのいい奴、着替えさせるだけでも大変だったろ?」
「いえ、大丈夫でしたよ」
(こんな細い腕で、ふた回りも大きな男の着替えを完璧に済ませ、髪も乾かしたって?どうにも想像できない)
理愛に支えられながら、ふとベッド脇にある鏡に目をやる。
空港で見た隆二と同じだ。
目の下にくっきりとクマが浮かび、憔悴しきった様な青い顔をしている。
「理愛…」
気がつくと、臣の背中に手を回して抱きついている。
「旦那さま…昨日お帰りになられてから、一度も私に触れてこないんですね」
「……」
「ずっと寂しかったので…キスしてください」
臣の胸辺りから顔を上げ、長い睫毛(まつげ)を震わせながら目を瞑(つむ)っている。
「理愛…ごめんね。今はやめておく。俺やっぱり疲れている様だから…」
「そうですか。無理言って申し訳ありません」
そう言うと、臣の胸に顔を埋めた。
End
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