『W旦那+(プラス)』第34〜35話 (臣のマンション②)三代目妄想劇場
この場に隆二がいて、今のセリフを聞いたらどう思っただろう。
昨夜はNGで今日はOK。
理愛のいう大丈夫な日とそうでない日は、どういう基準で巡ってくるのか?
理愛の素肌が触れているのは、手の平と細い腕だけで、背中に感じる感触はガウンの生地のものだ。
(これでもし、理愛がなにも着てなかったら、俺瞬殺で落ちてただろな…)
腹筋辺りにある白い手を両手で握り、
「理愛、俺を選んでくれるの?」
臣の手の中で、白い手がピクッと動く。
(はい…と答えたら、すぐにでもベッドへ連れて行き迷わず抱くだろうな…)
しばらくなにも答えない。
「理愛?」
「私は…」
「私には選べません」
なにも言わず臣は振り向き、理愛を抱いて一緒に立ち上がる。
向かい合わせになり、理愛の肩に両手を乗せ、目を見ている。
「わかってるよ。お前には選べないよね」
「……」
「でもね、この国では2人の男性と同時に籍を入れることはできないんだ」
「俺は別に今のままでも構わないけど」
「お前が抱いてほしいって言うなら、俺を選んでくれなきゃそうなれないよ」
「では…無理ですね」
眉を寄せ、しばらく黙っている臣。
「俺たちの所に来てもう5年になるけど、そんなこと言うの初めてだね」
「……」
「隆二とも何かあったの?」
「いえ…」
臣の逞(たくま)しく引き締まった胸に直接顔をつけて、理愛が抱きついてくる。
「俺も…多分隆二も、こんな風に抱き合ったりキスしたりしてると…ほんとに辛いんだよ、理愛」
「我慢していらっしゃるんですか?」
「そりゃ…俺たち健康な男子だからね」
「……」
「忍耐のチュー…」と言って、臣から口づけをする。
舌こそ絡ませないが、柔らかい理愛の唇に触れていると、理性を貫き通す自分が恨めしく思える。
無理矢理にでも理愛を奪いたい。
一線を超えてしまえば、理愛も俺を選んでくれるかもしれない。
唇を離して理愛をギュッと抱きしめる。
「俺も相当キツいよ…」
「後先のこと考えないで、いっそ…」
「無理しないで下さい」
「えっ?」
「旦那さまには…他に大切な方がいらっしゃるんですよ」
(えっ⁉︎今なんて言った?)
体を離して理愛を見た途端、その顔が…いや空間自体が歪(ゆが)んで見えた…
「旦那さまが結ばれるのは、私じゃありません」
理愛の美しい声ではない。
空間の歪みと共に、理愛の声も地の底から響くように、薄気味悪く聞こえた。
立っていられなくなるほどの目眩(めまい)がして、目の前が真っ暗になる。
しばらくしてバスルームの床でうつ伏せになる臣に、白い手がそっと触れる。
「旦那さま?風邪を引きますよ」
End
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