『W旦那+(プラス)』第31話 (空港)三代目妄想劇場
翌日、隆二は憔悴しきった顔で、臣の前に現れた。
「えっ⁉︎お前どうしたの?血の気ないし、その目の下のクマ…」
パリから中国へ移動し、上海でのイベントを終え、1日違いで帰国した臣を、空港まで迎えに行った。
空港内のカフェで向かい合わせに座る二人。
「ん…ちょっと眠れなくて…」
「なんかあった?今日理愛は一緒じゃないの?」
「うん、もう店開けたいって…昼から営業してるよ」
「…で、空港まで来るなんて、なんか急な用事?」
「よくわかるね、臣」
「何年一緒にいると思ってんの?」
「それもそうだ」と言ったきり、疲れた顔で下を向き、しばらく切り出してこない。
「隆二?」
「臣…しばらく理愛ちゃんを預かってくれないかな?」
「えっ?それって日替わりを解消したいってこと?」
「うん、一時的にね。少し考えたいこともあるし…」
「俺ちょっと疲れてるみたいで、今のままじゃ安全に、理愛ちゃんを預かる自信がない」
「何かあったの?」
「夢を…ね」
「夢?」
「ごめん…今は言いたくない」
いつも太陽のように明るい男が、疲れた顔でそう告げる。
「10日間くらいでもいい?」
「うん、十分」
「わかった」
「そのかわり、その間に理愛が俺のことを選んでくれたら、俺あいつと籍入れるけどいい?」
しばらく悲しそうな目をして黙っていたが、やっと重い口を開いて、
「理愛ちゃんがそう望んだのなら…仕方ないね」と言った。
臣はじっと隆二の顔を見ていたが、
人差し指をクイクイっと動かして、
「隆二、ちょっと顔貸して…」と言う。
「ん?なに?」
隆二は二人の間にあるテーブルの中央辺りまで、顔を突きだす。
すると、臣の大きな右手が隆二の額に触れた。
「え…と、何の真似かな?これ…」
隆二が聞く。
「熱はないけどな」と臣。
「心配してくれてんの?珍し…」
「そりゃ、大切な相方のことだもの。当たり前でしょ?」
隆二は一瞬びっくりしたような顔をしたが、すぐに照れ隠しのように口を尖らせ、
「俺のことはいいからさ。理愛ちゃんのこと、よろしくお願いね」と言った。
「この際だからはっきり言っとくけど」
「ん?」
「俺にとっちゃ理愛と同じくらい、お前のことも大事なんだからな」
「は?なにそれ?恋敵に言うセリフか?」
「だってお前…」
「ん?」
「まるで生き血を抜かれたような顔色してるからさ…」
「……」
カフェの自動ドアが開き、
冬を感じさせるような冷たい風が、
二人の間を吹き抜けていった。
End
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