『W旦那+(プラス)』第29~30話 (隆二のマンション②)三代目妄想劇場
理愛の発した言葉の意味が理解出来ないまま、時が過ぎた。
何か言おうとしたが、急激に逃れようのない睡魔が襲ってきて、理愛を抱いたまま眠ってしまう。
どれくらい眠ったのだろう。
目が覚めると部屋の中は真っ暗で、
月明かりだけが、煌々と部屋を照らしている。
腕の中には理愛がいて、ジッと隆二の顔を見ている 。
深く吸い込まれそうな深海の青…
(俺、何か言おうとして、そのまま眠ってしまったのか?)
(えっと…何を聞こうとしたんだっけ?)
朦朧(もうろう)とする意識の中で、必死に考えようとするが、どうもうまくいかない。
目は開いてるのに、体が動かない。
まるで金縛りにあってる感覚…
(理愛ちゃん…ずっとこうやって俺の顔を見てたのか?)
「旦那さま…どうしても理愛を抱いて下さらないのなら…」
(えっ⁉︎)
ごおっと風が吹き、窓が揺れる。
一瞬にして月が雲に隠れ、部屋は漆黒の闇になる。
暗闇に浮かぶ理愛の青い瞳が真っ赤に変化し、
ピンクの唇がパクッと開き、
鋭く尖った牙が二つ見える。
(えーっ‼︎牙…って…吸血鬼⁉︎)
(嘘でしょ?俺悪い夢でも…)
「どうしても抱いて下さらないのなら…」
さっきまでの美しい声とは異なる、
男とも女とも言えない地の底から響くような声で理愛が続ける。
「旦那さまの血を下さい」
かっと赤い目が見開き、隆二の首にヌルッと牙を立てる。
「や…やめろー‼︎」
咄嗟に理愛を突き飛ばす。
「きゃっ!」
ベッドの端に軽く飛ばされる理愛。
固く閉じていた目を恐る恐る開けると、
部屋の電気が付いていて、
ベッドの隅っこに震えて小さくなっている理愛の姿が目に入った。
「え?」
震える手で首を触ってみるが、噛まれた跡などない。
(おれ…夢見てたのか?)
Tシャツが汗でぐっしょり濡れている。
「理…愛ちゃんごめん、おれ突き飛ばしたりして…」
「うなされていた様なので…悪い夢でも見たのですか?」
小刻みに震え、理愛がやっと言葉にする。
「ごめん…痛かった?どこもケガしてない?」
ベッドの上を膝で歩きながら、ゆっくり理愛に近づく。
「大丈夫です…ちょうどベッドがクッションがわりになって、跳ねただけです」
青い瞳を潤ませている。
「ごめん…酷いことしたね…おれ」
胸に抱き寄せる隆二。
理愛は小鳥のように小さく震えている。
「隆二さん、ひどい汗…」
ハッとして体を離し、
「うわっ…理愛ちゃんについちゃったね、俺ほんとに酷いことばかり…」
お互いベッドに正座をして向かい合ってる。
(彼女が吸血鬼なわけないのに…)
美しく震える顔を左手で包み、
「ごめんね」と言って、優しく口づけをする隆二。
汗で濡れたTシャツの胸に、なんの躊躇いもなく抱きついてくる理愛。
その髪を撫でながら、ふとベッドの上を見ると、理愛のスマホが転がっている。
手を伸ばしてスマホを取った拍子に、
側面のボタンに指があたり、画面に光が灯る。
理愛は目を閉じて隆二の胸に顔を埋めているので、気づいてはいない。
何気にスマホの画面を見ると、
『nnhjhjhlhj nnhjhjhl』
と不可思議な文字が並んでいる。
「理愛ちゃん、どこかにメールしようとしてたの?」
「えっ?」とびっくりしたように理愛が離れ、隆二が持つスマホに目をやる。
「いえ…私もウトウトしてたので、寝ぼけて操作を誤ったのかもしれません」
「メールじゃないの?」
「はい…名古屋で撮った写真を見ていただけです」
「そっか」
スマホを理愛に返す隆二。
(悪夢といい、スマホの不可解な文字といい、今夜はおかしなことばかりあるな…)
(長旅から帰ったばかりで疲れてるのかな?)
などと考えながらも、少し背筋が寒くなるような感覚を覚えた。
結局その夜、隆二は一睡もできず理愛に寄り添い、朝を迎えた。
End
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2017.12.04 15:02
2017.12.04 13:06
2017.12.04 12:13