『温泉旅行①』(続・臣隆妄想劇場38)ショートバージョン
ゆっくり風呂に浸かりたいから、一泊で温泉に行こうと臣が言い出した。
行き先は、貸し切り露天風呂がある伊豆の温泉。
仕事で海外に行くことがあっても、プライベートで臣と二人っきりで行く旅行は初めてだ。
朝早く起きて準備をしながら、隆二はワクワクしていた。
「おーみ!準備できた?」
さっきから臣の姿が見当たらない。
(あいつ荷物どこに置いてんだろ?)
ひょこっと臣が顔を出して、隆二に小さなポーチを渡した。
臣「これ一緒に入れといて」
隆二「なにこれ?」
臣「着替えのTシャツと下着」
隆二「え?荷物これだけ?」
臣「ん」
隆二(相変わらず少なっ…)
隆二「何してたの?」
臣「ん?掃除機のスイッチ入れてた」
部屋の掃除は臣に任せている。
といっても、臣が各部屋に置いてあるルンバのスイッチをONにするだけだ。
臣「髪、束ねた方がいいかな?」
隆二「えっ⁉もう時間ないよ」
臣「マジ?」
隆二「朝起きてから何してたの?」
臣は指を折りながら、
「えっと…歯磨いて、顔洗って、髭剃って、コーヒー飲んで…ルンバのスイッチ押して…」
隆二「うわっ!臣っ!もう出なきゃ‼」
臣「あと…何してたっけ?」
隆二「いいから!行くよっ!」
急(せ)きも慌てもしない臣の腕を持って、急いで玄関に向かう。
臣「髪…ボサボサのまま…」
隆二「電車の中でしてやっから帽子被ってな!」
玄関に座って靴の紐を結ぶ臣にニット帽を被せる。
臣「おはようのキスもまだ…」
隆二「毎日しなくてもいいの!ほら、行くよ」
マンションのエレベーターに乗り臣を見ると、ぶーっと拗(す)ねたような顔をしている。
隆二は「おみ…おはよー」と言って、臣の頬に軽くキスをした。
「ここがいい」
臣は自分の唇を指差す。
隆二はしょーがないな…といった顔をしながら、防犯カメラを意識してバッグで顔を隠し、臣の唇にキスをした。
すかさず臣はぐいっと隆二の腰を引き寄せ、舌を絡めてくる。
隆二「んん(おみ)!?」
チンと音がして1階へ到着し、エレベーターの扉が開いた。
「おはようございます」と声がしたので、慌てて離れる二人。
見ると、小型犬を抱いたマンションの住人が立っている。
臣「あ…ははははは!おはよーございます‼」
隆二は真っ赤な顔をして、軽く会釈をする。
隆二(まだマンションも出てないのにこれだよ…)
隣を歩く臣は機嫌良さげに笑っている。
隆二(先が思いやられる…)
二人はタクシーに乗り、駅へ向かった。
続く
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