三代目❤夢小説(臣隆編sixth)『冬恋 73』
数日後、ヘルシンキ発成田行きの航空機に乗った。
なんとか間に合った。
9時間25分のフライトだ。
帰りはフィンエアーだ。
個室のファーストクラスシートはない。
離陸後しばらくしてシートベルトのサインが消えると、
隆二は座席の下に置いてあったサブバックをゴソゴソし始めた。
「えっと、健ちゃんに渡すミーのマグ買ったし、俺のもついでに買ったし」
「メンバーへのお土産と実家に持ってくのと…あれ?臣ってなんか買ってたっけ?」
「ん?なんも買ってない」
「そうだよね!高そうな酒ばっか眺めてた」
「俺はいいんだ、お前さえ側にいてくれたらそれで…」
「………」
「ん?なんだよ、変な顔して」
「臣ってスゲェな」
「…どんどん傷が埋まってく」
「まるで優秀な左官工みたいだ」
「左官って、あの壁にセメント塗る職人のこと?」
「そうだよ、いっぱい塗りたくってくれたから傷はもうない」
「そりゃ良かった」
「厚塗りで息ができないけど」
「何だそれ 」
臣は笑ってコツンと軽く隆二の額に触れた。
その手を握り返した隆二の表情はとても穏やかだ。
「ねぇ、イナリへ向かうツアーバスの中で何て囁いてたの?」
「ん?教えてやんない」
「ズリィ‼︎教えろって」
後ろから臣の脇の下をこしょこしょする。
「やめろ!擽ったい‼︎」
「お客様、お静かにお願いします」
キャビンアテンダントに軽く注意されて、急に大人しくなる二人。
すると後ろの席から、二人に負けないくらいのトーンで言い争っている声が聞こえてきた。
「タイミングってもんがあるだろ?年に一回遭遇できるか否かの巨大なオーロラだったのに!」
「そう責めるな!仕方ないじゃろが。バッテリーが切れちまったんだからな」
「あたしには来年があってもだ!あんたの様な老いぼれには明日の太陽さえ拝めるかどうかもわかんないだろが!千載一遇ってのは絶対に逃しちゃいけないんだ!」
キャビンアテンダントが軽くため息をついて、後ろの乗客の元へと急いだ。
比較的空いているファーストクラスだからか、余計に目立つ。
「人を年寄り扱いするな!ワシはまだ60そこそこの青年じゃ!」
「万年極地でオーロラ追っかけてるから、皺くちゃだし、仙人みてぇに真っ白だし、どこが青年だよ!どっから見てもジィさんじゃねぇか!」
「お客様!どうかお静かにお願い致します」
キャビンアテンダントの口調も心なしかキツく聞こえる。
「悪かったね、ねぇさん、えっと酒頼むよ!一杯ひっかけて寝るから」
「何をお持ちいたしましょうか?」
「スコッチあるかい?バランタイン30」
その銘柄を聞いて臣はハッとした。
「どうした?臣…」
立ち上がって後ろの座席を振り返って見る。
「あ…あー‼︎隆二っ!し、シシガミ様だ‼︎」
「ええっ⁉︎そんな訳…」
そこには豊かな白髭をたくわえたオーロラ小屋の主と、
華奢で真っ白な長髪のガラスイグルーの女主人が、肩を並べて座っていた。
「あーっ‼︎お、おじいさん⁉︎」
「おお!青年‼︎じゃがワシはジジィではないぞ!」
「どうかお静かに!」
「す、すみません…」
つづく
2コメント
2021.04.11 15:33
2021.04.11 12:20