『W旦那+(プラス)』 三代目妄想劇場 スピンオフ(初めてのチュー⑦)
うちは小さな街の個人病院だ。
院長と看護師が二人、レントゲン技師に受付が橘さんと私。
総員6人。
診察室から火がついたように泣く子供さんの声が聞こえる。
「うぇ~ん💦ママの意地悪‼️お注射嫌い💦
先生も嫌いよ💦」
受付の合間に、インフルエンザの予防接種をして泣く子供さんをあやしに行くのが私の役目だ。
女の子だからキティちゃんのパペットを手にした。
「こんにちはぁ!キティです」
「桜ちゃん、痛かったの?よく頑張ったね~!もう大丈夫よ」
学生の頃、声優に憧れて勉強していたことがある。
そっちの夢は諦めて医療事務の仕事を選んだけど、こんなところで役に立ってる。
友人に褒められた声色を使ってなだめる。
「キティちゃん、あのね。痛かったの…」
「そっかぁ。でも、もう痛くないよね」
「うん…」
「じゃあ桜ちゃんにご褒美あげる」
これまた特技のマジックを駆使して、小さなピンクの造花を一輪取りだした。
「すごーい‼️キティちゃん、どこから出したの?」
「うふふ、それは秘密よ」
「はい!桜ちゃん、お花どーぞ」
「ありがと」
「じゃあ、ママと先生のこと許してくれるかな」
「うん!もう怒んないよ」
「ありがと。桜ちゃんいい子だね」
「キティちゃん、バイバーイ‼️」
女の子はお母さんに手を引かれて、笑顔で診察室を出ていった。
「かのんちゃん、流石ね!ありがとう」
看護師さんから褒めていただいた。
受付に戻った。
あのラブラブ親子に目を向ける。
「パーパ、あちゅい💦」
「パーカー脱ごうか」
坊やが着ていた白のパーカーを脱がせている。
大きめのパーカーで隠れていた赤いジーンズ。
お尻におっきなアンパンマンのお顔がついてる。
アップリケをざっくりと縫い付けてある。
既製品じゃなさそう。
お母さんのお手製かな?
アンパンマン好きなのかな。
残念…
それはレパートリーにない。
あの坊やも注射したら泣いちゃうかな?
男の子だから機関車トーマスのパペットと紙飛行機でも用意しておこう。
「とさかたかおみくーん!」
「あーい✋」
坊やの順番がやってきた。
つづく
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2019.12.05 11:40
2019.12.05 11:37
2019.12.05 11:33