臣隆妄想劇場⑤(修正版)
『警告②』
その日の夜遅く、行きつけの店でがんちゃんと飲んでいる。
剛典「4DXって俺初めてだったけど、面白いよね」
臣「えっ?…ああ…そうだな」
そう答えてはみたが、映画の内容は全く覚えていない。
剛典「なんか今日はずーっと、心ここに在らずって感じだよね」
臣「ん?そうかな?…気のせいでしょ」
あいつ、今頃健ちゃんと仲良くやってんだろな…
あの二人、もともと仲いいし…
あいつのラジオに健ちゃんがゲストで出た時だっけ?
健ちゃんと一緒だと、安心感半端ないって言ってたよな。
まぁ、確かに健ちゃんはいい奴だし。
グラスになみなみと酒をつぎ、
こぼれ出しそうな、その丸みをじっと見つめる。
剛典「ん?なになに?なんか見えんの?」
興味津々でがんちゃんが顔を近づけてくる。
相変わらずの屈託のない笑顔を俺に向ける。
丸みの表面を指で突くと、酒がグラスから溢れ出した。
臣「一度溢れ出すと、止められなくなるんだよね」
剛典「え?なんの例え?なんか切ない顔して…恋でもしてんの?」
ズキッ…っと、胸が痛む。
恋…あいつに?
俺自身もよくわからない。
自分の感情のまま行動してるけど、
これって恋なのか?
そもそも何であいつなのか?
ふーっ…と、ため息をつく。
剛典「あ~あ…ため息なんかついちゃって…図星?」
「相手どんな人?今度写メ撮って見せてよ」
見せれるわけねーだろ…
がんちゃんやめて❗
これ以上つっこまないでくれ…
「こいつ」…なんて隆二の写真を見せた日にゃ…
考えただけで頭が痛くなる。
翌日はスタジオで、ボーカルリハがあった。
もちろんスタッフも大勢いる。
ツインボーカルだから当たり前かもしれないが、一緒にいる時間は沢山あっても、二人っきりっていうのは意外と少ない。
スケジュールの都合がつく時は、
なるべくお互いの家を行き来してきた。
ここ数日で一変した二人の関係…
こうやって近くに居ると、無性にあいつが欲しくなる。
少し離れた所に座っている。
「隆二…」と声を掛け、キャスター付きの椅子ごと近くまで移動した。
隆二「さすがにここじゃ駄目だよ」
臣「休憩中は誰も入ってこねーよ…」
隆二「わかんねぇだろ」
臣「時短でいいから…ん…」
椅子に座ったまま、口をすぼめて突き出す。
隆二「…しょうがねぇな…ったく」
隆二の手が俺の頬に触れ、一瞬ゾクッとした。
しっかり目を閉じて隆二が来るのを待ってると、
「ドンドン」といきなりドアをノックする音がした。
隆二「は…はぁい❗ちょ…ちょっと待って下さい!」
椅子から落ちそうになりながら、
元居た場所へ戻った。
隆二「どうぞ~!」
「隆二くん、臣くん❗休憩中にごめんね!明日の取材なんだけど…」
マネージャーが矢継ぎ早に話をする。
危なかったな…今のも…
『警告③』
その日の夜はLDHの飲み会があった。
スタジオを出る時、いつものように「隆二!行こか」と健ちゃんが声を掛け、先に二人が出ていく。
少し遅れて俺が会場に到着すると、
健ちゃんとNAOTOさんが隆二の両隣に座り、近くに俺の座るスペースはなかった。
今までも、こんな感じだったけど…
「今市くん、ホント健ちゃんと仲いいよね❗」
そう呟きながら、俺の左側にELLYが腰掛ける。
「息ぴったりだしな!」と、右隣に座っていたがんちゃんがトドメを差す。
向かいの席を見ると、
「隆二~‼お前ふざけんなよー!もう早よ帰れ~‼」
隆二「まーた…健ちゃん!ホントは居て欲しいんでしょ?」
「バレた?」
二人仲良く、陽気に笑ってる。
…ごめん、健ちゃん…
おれ、今嫉妬してる。
あいつ…めちゃ楽しそうだし…
ELLY「なんか今日元気ないねぇ?臣…」
俺の顔をまじまじと見る。
剛典「恋患いなんだって」
ELLY「えっ⁉恋患い?凄っ!誰々?相手誰よ?」
明るい大きな声で騒ぐ。
臣「違うよ。勝手にがんちゃんが決めつけてるだけだし…」
ELLY「恥ずかしがらなくていいって!いつでも相談乗るよ❗」
ELLYが肩を組んでくる。
両隣でワイワイやってるのを他所に、
隆二に視線を送ってみる。
あいつ…ちっとも目を合わせようとしない…
翌日も俺は取材と映画の告知で、
隆二は取材の後、ラジオの収録があり、一日中顔を合わせることがなかった。
あの日から…
二日もあいつに触れてない。
なんか俺…もう限界みたい…
下唇を噛みしめる。
夜中の3時過ぎ、
気がつくと隆二のマンション前に立っていた。
そろそろ帰る頃じゃ?
「臣?どうしたの?」
タイミング良く隆二が帰ってきた。
「…隆二…おれ、もう枯れそう…」
「⁉」
「させて…」
「二日前にしたばっかじゃん!」
あー…そうなんだよな…この温度差…
こいつにとっては「したばっか」でも、俺にとっちゃ二日も前のことなんだ。
肩にそっと触れると、
隆二も俺の腰に手を回してきた。
「!?…外じゃダメ…とか言わないんだ」
「うん…なんとなく臣の気持ちもわかるから…さ」
俺は驚きと嬉しさが入り交じった様な表情になった。
隆二「…ちゅーだけならいいよ」
臣「…ちゅーなんて言い方すんなよ…おれ発情すんだろ…」
隆二「バカ…」
重なり合う二つのシルエット…
絡み合うほどに、甘く溶け合って、
嫉妬や孤独で支配されていた心が、
次第に解(ほど)けていく…
俺の心が暖かいもので包まれていった。
臣「お前…たまんない…」
隆二「…ほんと…癖になりそうで怖いね」
臣「隆二…明日は?」
隆二「特に予定ないよ」
臣「んじゃ、うちでいい?」
隆二「…うん」
臣「他の予定入れんなよ」
隆二「…臣もね」
東の空が少し明るくなってきている。
マンションの外に居ることも忘れて、
時間を惜しむかのように、
何度も唇を重ねていった。
翌日、スタジオでリハに励む二人の姿があった。
臣「隆二!そこのマイク取って」
隆二「ほい」
手渡しする際に、
臣はワザとマイクではなく、
隆二の手を握ってみせる。
隆二「…わかったから。また後でね!」
まるで恋人同士のような会話をしてみせる。
臣「待てない…」
臣がギュッと強く手を握ってくる。
「スタッフが帰ってくる頃だから…ほら」と言って臣をたしなめる。
臣は、嬉しくて仕方ないような笑顔を見せた。
午後のリハが始まろうという時に、
一足先にスタジオに入って来たマネージャーが、二人に声を掛けてきた。
「隆二くん、臣くん…」
臣隆「あっ❗今日は無理っす❗」
「いや…仕事じゃなくて…言っておきたいんだけど」
臣「なんすか?」
すると、マネージャーはおもむろに衿を正して言った。
「LDHは、アーティスト個人の恋愛に関しては本人に任せているけど…」
「メンバー同士の恋愛は禁止だからね❗」
「⁉️」
頭の中が、真っ白になった…
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