『W旦那+(プラス)』 三代目妄想劇場 番外編(最愛⑦)
隆二はホテルの正面から出て、早足に歩き始めた。
フロントでタクシーを手配しようとしたが、すぐには配車できないと言われた。
一秒でも早くこの場を離れ、隆臣を迎えに行きたい。
そうしなければ大切な息子を、あの女性に奪われる様な気がした。
頬にポツポツと大粒の雨が当たる。
一雨来そうだ。
雷の音も近くなってきた。
そんなことも気にならないくらいに、隆二は苛立っている。
急に雨が激しくなってきた。
「くそ!!…近くの駅までどれくらい歩けば」
取り出したiPhoneが雨粒に濡れる。
「先にがんちゃんに電話して…」
操作しようとした指が止まった。
隆臣を連れて東京に戻るか?
いや、しばらく関西の親戚の元に身を隠すか?
臣から逃げて?
なんで俺が逃げなきゃいけないんだ?
すぐ近くで雷が鳴った。
どしゃ降りの中を、ただひたすら進む。
何分くらい歩いただろう。
大雨で煙る車道に一台のタクシーが止まった。
後部座席から外に出て来た人影が、隆二の側に駆け寄ってきた。
おもむろに腕を掴まれた。
「なにやってんだ?こんなどしゃ降りの中で、風邪引いたらどうすんだ?」
「……臣?」
「ホテルに帰るぞ!!!」
「離せ!!俺はたっくんを迎えに…」
「いい加減にしろ‼️勝手に誤解しやがって」
「…誤解!?」
脇腹をがっちりガードされてタクシーまで連れていかれ、車内に引きずり込まれた。
「運転手さん出して下さい!」
「えっと、どちらへ?」
「この近くに素泊まり出来そうなホテルかなんかありませんか?」
「ああ、それなら一軒心当たりがあります」
「同性利用が可能なハピホテですが…」
「そこ行って下さい」
「かしこまりました」
隣を見ると隆二は、びしょ濡れの髪から水が滴り落ち、唇を噛みしめて下を向いている。
掴んでいた相方の腕を解き放つと赤くなっていた。
「ごめん、痛かったろ?」
「胸の奥が痛すぎて、感じないよ」
「馬鹿力…どこ行く気だ?」
「ホテルに戻りたくないんだろ、お前…」
つづく
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2019.07.13 08:36
2019.07.13 08:15
2019.07.13 04:34