『W旦那+(プラス)』第6~7話 (街中~婦人服専門店) 三代目妄想劇場
臣に手を引かれながら、銀座の街を歩く二人。
臣は黒のニット帽を被り、サングラスをしている。
「理愛、薄着で寒いだろ?」
「平気です」
完璧な変装をしている訳でもないのに、
臣が今をときめく有名なアーティストだとバレないのは、すぐ隣を歩く女性のせいだ。
理愛はシルクシャツの上に、薄手のコートを羽織っている。
銀色の長い髪と、ベージュのコートが風に揺れる。
街灯に照らされて通りをゆく姿は、まるで光が人の形をとっているかのよう…
立ち止まって振り向く男女は、臣の方を気にするでもなく、その光輝く女性を目で追っている。
「理愛と一緒なら、プライベートのショッピングも安心だな」
特に関心も持たず「そうですか」と理愛が答える。
ふと立ち止まり、「相変わらず、冷たい手だね」と臣が言う。
「心はあったかいのかな?」
臣は、自分が着ていたウールのシャツコートを脱ぎ、理愛に着せる。
薄いTシャツ一枚になった臣を見て、
「旦那さま…風邪引きますよ」と理愛が言う。
「鍛えているから、大丈夫だよ」
そう言って正面から理愛を軽く抱き寄せる。
「こうしてるとあったかいでしょ?」
「はい…」
理愛の髪に触れ、
「早くしないと店閉まっちゃうね」
優しく微笑みかける。
銀座の一等地にあるオーダーメイドの婦人服専門店。
試着室から、ベージュのワンピースを着た理愛が静かに出て来て、椅子に腰かけている臣の前に立つ。
スポットライトに照らされて、舞台に立つ女優のように、全身から光を放っている。
じっと見ていた臣が、「おいで」と理愛の手を取る。
椅子に座ったまま、臣の膝の上に理愛を座らせる。
後ろから理愛の腰に手を回し、ギュッと抱きしめた。
隣に立って見ている店の若いスタッフは、火が出そうなくらい赤い顔をしている。
「登坂様、素材の感じはいかがでしょうか?」
臣は理愛の髪に顔を埋めながら言う。
「うん、抱き心地はこれがいい」
「では、この素材でお仕立てさせていただきます」
「す…すぐにお見積書をご用意致します」
スタッフはそう言って、床のカーペットにつまづきそうになりながら、部屋を出て行った。
その様子を見て、
「なにか酷く慌てていらっしゃるよう…」
と理愛が言った。
「俺たちにあてられたんだろ?」
臣は理愛を軽く持ち上げて、自分の膝の上に横向きで座らせる。
「ネックレスは欲しくないの?」
「はい、あまり好きではありません」
確かに、その光る肌の上では、輝く宝石も色褪せて見える。
「そっか…」
「旦那さま?」
「ん?」
「私のことが好きですか?」
「…理愛はどう思う?」
「よく…わかりません」
すると臣は優しく、自分の胸に理愛の頭を抱き寄せる。
「こんな風に抱かれるのは…嫌?」
何も返事がないので、理愛の顎を持ち上げて近くで顔を見てみると、
その青い瞳を潤ませ、臣の目をじっと見ながら、薄く笑って言った。
「いえ…優しくしていただいて、幸せです」
まるで壊れやすい物を扱うかのように、片手で頬に触れ、優しくキスをする臣。
扉の外には、完全に入室するタイミングを失ったスタッフが、困り果てた顔をして立ちすくんでいた。
End
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