『別離①』(続・臣隆妄想劇場20)
「臣っ…ヤバい❗もう11時だよ!」
隆二の声で目が覚めた。
えっ⁉おれ…いつの間に眠って…
「やべっ…!」
飛び起きてジーンズを履き、
スマホと財布、パスポートをポケットに押し込む。
「持ってくものそれだけ?」
「ん、後は全部送った」
「お前ってほんと…」
「ん?」
「いや…」
寂しそうに隆二が笑う。
二人はタクシーを飛ばして空港へ向かった。
臣は黒のニット帽に黒のサングラス。
隆二は、ベージュのキャップを目深に被り、大きめのマスクで顔のほとんどをカバーしている。
見た目は男か女かもわからない。
大勢の人でごった返すロビーを、ぎゅっと手を繋ぎ、搭乗ゲートへと足早に歩く。
フライトまで、あまり時間がない。
人混みの中、ふと立ち止まって振り向く臣。
まるで映画のワンシーンの様に、絵になる男だ。
サングラスを外して、正面から隆二を見る。
「隆二…」
「最近ずっと一緒だったから、別に今のままでもいいって思ってたけど」
「やっぱり早くそうすべきだったって…今になって後悔してるよ」
「臣…」
「ごめん、おれ昨日笑ったりして…」
「もう行かなきゃ…」
行き交う人混みの中、
突然、隆二のマスクとキャップを外し、
両手で頬を持つ臣。
「駄目だよ…臣、こんな所で…」
「知るか…」
なんの躊躇(とまど)いもなく、唇を合わせてくる。
長く切ないキスを交わす…
二人の周辺を行き交う人々は、気に止める様子もなく、
慌ただしく通りすぎていく。
時間ギリギリまで重なりあっていたが、
急に回りが静かになり、フライトが近いことを感じると、
臣の方からゆっくりと離れ、
隆二の右手をとり、薬指のリングに軽くキスをする。
「メールするから」
そう告げて、臣を乗せた飛行機は、
欧州へ向け飛び立っていった。
End
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