『嫉妬』(続・臣隆妄想劇場12)


しばらくは、平穏な日々が続いた。



ある日のこと、



LDHの専用ジムでトレーニング後、



休憩をしている臣に健二郎が声を掛けてきた。



健二郎「臣ちゃん、またでかでかと書かれとるで!」


健二郎が差し出した大手出版社の週刊誌を見ると、



《芸能界No.1のモテ男 熱愛発覚!?》



《大阪の熱い夜!》



と大きな見出しで記事が載っている。



臣「は!?…何だこれ?」



健二郎「また根も葉もないゴシップかいな?」



健二郎「まぁ、時間差でホテル出るとこ隠し撮りされてるみたいやから、どないでも後付け出来るわな」



臣「……」



健二郎「このペアリングってのも、たまたま被(かぶ)ったんか?」



いつも左手の薬指に着けている愛用のリング。



相手もまったく同じブランドのリングを、左手薬指にはめている。



それぞれの左手が大きく拡大され、掲載してあった。



健二郎「相手の女優さんて、映画で共演してた人やんな?」



臣「そうだけど…いつものことだよ」



あまりにもよく出来すぎていて、怒る気にもならない。



健二郎「そっか…でも、臣ちゃんのこと好きなファンが見たらショックやろな」



健二郎「また、たまたま同じホテルって…」



健二郎の話の途中で、ふと気になってスマホを手に取る。



臣「健ちゃんごめん!俺ちょっと急用思い出して…電話かけてくるね」



健二郎「おーっ!ごめんな、臣ちゃん。余計なお世話やったな!気にせんといてや!」



あいつ…大丈夫かな?



廊下に出て隆二に電話をかけるが、呼び出し音が鳴るだけで電話に出ない。



今日は午後からオフじゃなかったっけ?



なんだろ?



胸騒ぎがする…







何これ…?



臣と一緒に暮らすマンションで、



隆二のスマホを弄(いじ)る手が止まった。



ファンがインスタに上げた週刊誌の記事を真剣に見ている。



壁に掛けてあるカレンダーに目をやると、



記事と同じ日付の所に、臣の字で『大阪』と書いてある。



確か半月ほど前に、映画の舞台挨拶で、4~5日地方に泊まりで行っていたことがあった。



この女優って…今度の映画で共演した人…



いつも大切に、左手の薬指に嵌(は)めているリング…



まったく同じものだ…



いつもなら気にも止めないスキャンダルも、



今は状況が異なる。



俺たち…ただ一緒に暮らしているってだけで…



あいつとは、キスはするけど、



それ以上の深い関係じゃないし…



しばらく手を止めて考え込んでいた隆二だったが、



スマホをテーブルに置き、



乾燥機から出してきた洗濯物を綺麗にたたみ、ベットの上に置いた。





何かが隆二の中で、弾ける音がした。







トレーニングの後、LDHの先輩と会食があり、



隆二と同居するマンションに帰宅した頃には、日付が変わっていた。



食事中も隆二のことが気になり、




何回か席を立ち、電話を掛けたが、




相変わらず呼び出し音のみで出てこなかった。




はやる気持ちを押さえて、マンションの中に入ると、




部屋は真っ暗で、いつもの場所に隆二の姿はなかった。



ベットの上を見ると、



二人でシェアしているVUITTONやGUCCIのTシャツが、綺麗にたたんで置いてある。



ちょっと待てよ!



…こんなことで?



ジム用の荷物をソファーへ放り投げ、



スマホだけ手に取り、走って家を出る。



隆二!



こんなことで簡単に終わりにしないよな?





寝静まった街の中を、



隆二のマンションへと急ぐ臣だった。




End

0コメント

  • 1000 / 1000