『W旦那+(プラス)』 三代目妄想劇場 番外編(新生44)
魔魅夜の代表作『魂を吸う』
ダークサイドの西洋美術を彷彿とさせる暗いタッチ。
もっちりとした肉付きのいい素肌に、透き通る薄衣だけをまとった若い女性が横たわり、
その首に絡みつく鉤爪の黒い手。
女を誘惑するのは雄牛の角を持った悪魔ともおぼしき青年で、つり上がった目、避けた唇からは長くて真っ赤な舌が垂れ下がり、女の耳に侵入しようとしている。
直接的な性の場面ではないにもかかわらず、じっと眺めていると、なんとも淫らな気持ちが湧き上がってくる。
地上に降り立った若い悪魔が人間の娘を見初め、言葉巧みにかどわかし、その魂を耳から吸い取ろうとするシーンなのだろう。
その官能的な表情を見てもわかるように、
女も満更ではない様子で、悪魔に身を委ねている。
それにしても、目を覆いたくなるような醜い容姿なのに、
若い悪魔のなんと妖しく美しいことか。
廉は思わず唾を飲み込んだ。
何も語らず、隣で食い入るように絵画を見つめる隆二も、自分と同じように淫らな気持ちになっているのだろうか?
しばらくして、沈黙を破ったのは隆二だった。
「どう?」
「なんか、変な気分です」
「ヤリたくなった?」
「え…それは…」
「ふふ、冗談だよ。次、行こ」
「…はい」
そりゃ、憧れの人とキスできれば…
それだけで、僕は充分満たされるけど…
この画廊を出た後で、またさっきみたいに隆二から、誘惑する素振りを見せるだろうか?
前を行く隆二の美しい後ろ姿を見つめながら、廉はあれこれと思いを巡らせていた。
つづく
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