臣隆妄想劇場⑩(修正版)
『TRY②』
この期に及んで、往生際が悪いよな…おれ…
「ほら…」と、臣が引き寄せる。
隆二から臣の上に乗っかり、キスをし始める。
舌を絡ませ合う内に自然に臣が上になり、隆二の首から胸にかけて、優しくキスをしていく。
こんな経験して、おれ明日から一人で耐えられるかな?
隆二の胸の一番敏感な部分に臣の唇が触れると、繋いでいた左手に力が入った。
「ちゅっ…」
臣が音を立てて吸ってくる。
あっ…声…出そう…
「声出してもいいよ…」
臣が耳元まできて囁く。
いや…さすがに無理…
隆二は無言で首を横に振った。
「ならいいけど…」
臣はまた隆二の唇を塞いだ。
隆二は思った。
前にふざけてELLYとキスしたことがあるけど、臣は触れた感触が全然違う。
何ていうか…こう、しっくりくるっていうか…
こいつも同じこと感じてんのかな?
再び臣の右手がスッと隆二のトランクスの中に入ろうとすると、
自然に体がビクッと反応した。
隆二は無意識で腰を引いた。
「隆二?」
「…待って…ほんと無理かも…」
「……」
隆二を下にしてベットについた両手で、臣はギュッとシーツを握りしめた。
隆二は左手で顔半分を隠している。
しばらく沈黙があった。
「…テキーラ飲むか?」
「……ベロベロにして、意識無くしてからヤルってか?」
「ヤなの?」
「やだ」
「……」
臣は天を仰ぎ、フーッとため息をついた。
ゆるくウェーブのかかった髪を、くしゃくしゃしている。
「やっぱ、無理か…」
「…ごめん」
二人とも仰向けに寝て、何も言葉を交わさない。
しばらくしてから、臣が口を開いた。
「2ヶ月待てる?」
「頑張ってみる」
「そん時はうまくいくかな?」
「わかんねーよ…そんなの」
「なんなら、逆でもいいけど…」
「なに?俺がする側ってこと?」
「うん…別に俺はどっちでも…」
「俺にそんなこと出来るわけねーし…わかってるでしょ?臣…」
「だな…お前には無理」
「それまでに、シュ…シュミレーションしとく…」
「そんなのしなくていいから」
「…ごめん…臣」
隆二が臣の頭を抱き寄せる。
「いいよ…も一回…」
臣が目を閉じた。
濃厚なキスをしながら、臣はベットサイドの時計を見た。
2時半か…
しっかり抱き合って安心したように、
隆二が先に眠りについた。
臣は起きていて隆二の唇を触りながら、ずっと顔を眺めてる。
フライトまで…
あと9時間を切った。
『別離①』
「臣っ…ヤバい❗もう11時だよ!」
隆二の声で目が覚めた。
えっ⁉おれ…いつの間に眠って…
「やべっ…!」
飛び起きてジーンズを履き、
スマホと財布、パスポートをポケットに押し込む。
「持ってくものそれだけ?」
「ん、後は全部送った」
「お前ってほんと…」
「ん?」
「いや…」
寂しそうに隆二が笑った。
二人はタクシーを飛ばして空港へ向かった。
臣は黒のニット帽に黒のサングラス。
隆二はベージュのキャップを目深に被り、
大きめのマスクで顔のほとんどをカバーしている。
見た目は男か女かもわからない。
大勢の人でごった返すロビーを、ぎゅっと手を繋ぎ、搭乗ゲートへと足早に歩く。
フライトまで、あまり時間がない。
人混みの中、ふと立ち止まって臣が振り向いた。
まるで映画のワンシーンの様に、絵になる男だ。
サングラスを外して、正面から隆二を見る。
「隆二…」
「最近ずっと一緒だったから、別に今のままでもいいって思ってたけど」
「やっぱり早くそうすべきだったって…今になって後悔してるよ」
「臣…」
「ごめん、おれ昨日笑ったりして…」
「もう行かなきゃ…」
行き交う人混みの中、
臣は突然隆二のマスクとキャップを外し、
両手でその頬を持った。
「駄目だよ…臣、こんな所で…」
「知るか…」
なんの躊躇(とまど)いもなく、唇を合わせてくる。
長く切ないキスを交わす。
二人の周辺を行き交う人々は気に止める様子もなく、慌ただしく通りすぎていく。
時間ギリギリまで重なりあっていたが、
急に回りが静かになり、フライトが近いことを感じると、臣の方からゆっくりと離れた。
隆二の右手をとり、薬指のリングに軽くキスをした。
「メールするから」
臣を乗せた飛行機は、
欧州へ向け飛び立っていった。
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