臣隆妄想劇場⑨(修正版)
『葛藤②』
臣はずっと葛藤していた。
自分のマンションで簡単に渡欧の準備を済ませ、リビングに座りコーヒーを飲んでいる。
こんなとこ、隆二が見たらなんて言うかな…
「しばらく会えないのに、コーヒー飲んでる時間があったら、早く帰ってこい!」
言いそう…
いま腰掛けているソファーに手を置き、ふと記憶を辿(たど)ってみる。
ここから始まったんだよな…俺たち。
(回想)
「酔ってんのか?いい加減にしねぇと、ぶっ飛ばすよ!」
クス…
臣が笑った。
だが、すぐに笑顔は消えた。
隆二…ごめん。
まだ答えが見つからないんだ。
もう数時間しかないのに…
同居するマンションに臣が帰った頃には、夜の10時を過ぎていた。
これ100%怒ってるでしょ?
「…ただいま」
「お帰りーっ!晩飯は?」
ソファーの方から、明るい声が飛んできた。
「…外で済ませてきた」
「あっそう…。臣、シャワーするでしょ?着替えとバスタオルそこに置いてあっから」
「うん…」
いつもと変わらない。
スニーカーを脱いでると、隆二が玄関までやってきた。
「あれ?荷物は?」
「ん…もう宅急便に出してきた」
「相変わらず、やる事早いね!臣は」
シャワーを済ませて、
冷蔵庫の前でアイスを口に入れ立っていると、
「臣、早よおいで」
いつものように隆二が、
ドライヤー片手にソファーでスタンバイしている。
あと数時間…
せめていつも通りでいなきゃ…
臣は隆二に向かって微笑んだ。
今夜は極力明るく振る舞おうとしていた隆二だったが、臣の髪を触っていると、胸に込み上げてくるものがあった。
この生活とも、しばらくお別れか…
「ハァー…」
隆二がため息をついた。
「ん?どした?」
半分だけ振り向いて、臣が横顔を見せた。
食べ終わったアイスの棒を口に咥えている。
臣の横顔を見たまま隆二は無言でいる。
「あっ、お前さぁ!この間キスした時、めっちゃ甘かったやん。このアイス食ってたんでしょ?」
そんな…どーでもいいことを。
「…違げぇよ。丸っこい方だよ」
「やっぱりアイス食ってたんじゃん!」
「びっくりしたよー!お前、口からあんな甘い香りを出すようになったのかって」
「なんだそれ?」
「俺の為にローズヒップとか食うようになったのかなって、色々想像してた」
今日の臣、よく喋るな。
「……」
「…どうした?さっきまで元気だったのに」
「臣……しよっか?」
長い沈黙があった。
後ろから臣の表情は見えない。
「…俺も死ぬほど考えたけど、もし俺達そうなって、すぐに離れて暮らすのって…お前平気なの?」
「…想像できない」
「俺にもわかんないよ…」
「わかんないなら…さ」
「トライするしかないんじゃねーの?」
『TRY①』
TVを消し、ソファーでキスし始める二人。
「…臣」
「臣って…」
「ん…?」
「ここじゃ…狭いよ」
久しぶりだと、深くのめり込んでしまう。
隆二がようやく告げた甘ったるい声で、臣は我に返った。
ベットに移動し、ここ数日真剣に悩んでいた素朴な疑問を隆二にぶつけてみる。
「こっからどうすんの?」
「どゆこと?」
「…つまり…どっちが女役すんの?
…って、俺に言わせんなよ」
「知らねーよ…ってか、臣、あの晩どうするつもりでいたの?」
「そりゃ…流れで…その」
「おまっ…⁉︎だいたいよくわかってないんじゃねーの?」
「知っててたまるか!おれ、元々ゲイじゃないって前から言ってんじゃん」
「……」
「お互いに、して欲しいこと言う…とか?」
「うわー…なんかそれってワチャワチャするわ。ムードもへったくれもねーし」
「しょうがねぇだろ」
「…おれ、臣って完璧両刀使いなんだって思ってた」
「んなわけねーじゃん」
「男相手なんて、初めてだし…」
チラッと時計を見る。
しまった…!
呑気に会話してる場合じゃない。
臣はおもむろにTシャツを脱いだ。
「脱がして欲しい?」
「じ…自分で脱ぐ」
Tシャツを脱いでベットに目をやると、
仰向けに臣が寝ていて、「おいで」と言って手を広げている。
ダメだ…キュンとする。
でも…
「なんか…嫌ぁ」
「隆二…恥ずかしがってる時間なんかねぇぞ」
「……」
緊張した様子で、隆二が臣の腕の中に入ってくる。
また長めのキスを始める二人。
「ん…臣…」
「ん…いい感じ…」
そのまま臣は手を伸ばし、隆二のトランクスに手をかけた。
いきなり「ぷーっ!」と隆二が吹き出した。
「お前…!?せっかくのムードぶち壊す気か?」
「いや…マジ無理…俺の見て今更何が楽しい?」
「臣、散々サウナとかで見てんじゃん」
「それ言い始めたら、身も蓋もねーだろ」
「俺のだって、お前散々見てるし…」
「へへへ…言えてるぅ」
「こんな状況で笑うな!」
臣は呆れた顔をしている。
「ごめんごめん」
「どうすんの?…しないの?」
「……」
「俺…明日の夜は日本にいないぞ」
口元だけ笑ったまま、固まる隆二だった。
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