臣隆妄想劇場⑦(修正版)
『理性①』
久しぶりに隆二のマンションを訪ねた。
インターホンを押す時間すらもどかしく思い、持っていた合鍵を使い中に入る。
部屋は綺麗に整頓されていて、人の気配はない。
ここじゃないのか?
時計を見ると、夜中の2時になっている。
迷うことなく、健ちゃんに電話をかけてみる。
『臣ちゃん?』
「健ちゃん、夜中に悪ぃ…」
「隆二、一緒じゃないかな?」
『隆二?隣で潰れて寝てるで』
やっぱ健ちゃんのとこか…
「今どこ?俺もそっち行っていい?」
『ん?ええけど、俺明日の朝早いし、そろそろ隆二送って帰ろうかと思ってたんや』
「健ちゃんと隆二だけいんの?」
『そやで』
「そっか…隆二は俺が送るから、もう少しそこで待っててよ」
『えっ⁉️わざわざ臣ちゃんが?』
「…うん、ちょっと隆二に用事があって…」
スマホを片手に健ちゃんと話を続けながら、タクシーを止め乗り込む。
『こいつ話できる状態とちゃうで。
今日はやめといた方がいいんとちゃうか?』
「とりあえずタクシー乗ったから、そっち行くね」
『えっ…そうなん?相変わらず早いな!えっと、場所は…』
数十分後、健ちゃんと合流して、泥酔状態の隆二を託された。
苦しい言い訳だな。
健ちゃんも流石に納得いかない顔してた。
タクシーの後部座席で俺の肩にもたれ、眠っている隆二の顔を見ながら考えを巡らす。
さて…どうするか?
二人で暮らすマンションに、同時に帰るワケにはいかないし…
仕方ない。
とりあえず隆二のマンションへ。
エントランスギリギリまで車をつけてもらい、隆二をおぶって足早に部屋へと向かう。
しばらく使っていないベットルームはキチンと整理されていて、少し寂しい印象を受けた。
隆二をそっとベットに寝かせ横に座る。
すると、隆二が手を伸ばして俺のTシャツの袖を掴み、
「健ちゃん…もう一件付き合え…」
と言った。
隆二の髪を撫でながら答えた。
「隆二…健ちゃんなら、もういないよ」
「お前どうした?何で家にいないの?」
「臣…えっ?…ここどこ?」
「お前のマンション」
「……」
「出かける時はメールよこせよ。心配すんだろ?」
やけに優しい声で臣が囁いた。
「臣…」
「健ちゃんの所で良かった…」
俺のピアスを軽く揺らし、親指が唇に触れた。
目を閉じてゆっくり顔を近づけてくる。
あ…キスされるな…
と思った瞬間、怒りが込み上げてきた。
「…んだよ。日本一のモテ男が…」
ピタッと臣の動きが止まり、大きく目を見開いた。
酔いに任せて、本音が口をついて出てくる。
「俺がつなぎで、あっちが本命じゃないの?」
「えっ?」
「俺は、本命と会えない時用のおかわり君かよ」
言ってることは滑稽だが、とても笑える内容ではない。
「お前…どうした?あんなゴシップ信じんのか?」
以前の隆二なら「臣も色々大変だね」と笑って軽く流してくれた。
「昔とは状況が違うだろ?」
「俺のこと信じられないのか?」
「…」
隆二の細くて長い首に手を当て、
スーッと撫で下ろし、頸動脈に触れると、早鐘のように脈打ってるのがわかる。
「俺に触んな」
「…隆二⁉️」
「二股か三股か知んないけど…キスしたいんなら本命とすればいいだろ?」
「いい加減にしろよ!」
「るせーっ!そんな…ペアの指輪嵌めた手で…俺に触れん…」
言い終わらないうちに隆二の顎を上げ、強く口づけする。
「んん…」と抵抗して突き放そうとする隆二の腕を掴み、ベッドに押し付けた。
一瞬顔を逸らして「やめ…」と隆二が呻(うめ)いた。
くっそ…
やっぱりキスだけじゃ、心まで繋ぎ止めておけないのか?
嫌がる隆二の唇を、強く吸い続けた。
『理性②』
次第に隆二が大人しくなり、そっと唇を離してみる。
「はぁ…は…ぁ」
お互いに息づかいが荒い。
「…隆二?」
全身に酒が回ってるようで、
俺の腕の中にいる隆二は、ほんのり赤く染まり、息をのむほど色っぽい。
「はぁ…きつ……い」
「もういいだろ…帰れよ…臣」
俺は下唇を強く噛み、悲しげな表情を浮かべた。
…どうすれば信じてくれんだよ?
本能的に行動を起こす。
隆二の首に唇を押し付け、
場所を変えながら音を立て強く吸う。
「⁉︎…なに…すんだよ…やめろ!」
唇を離し、隆二の上体を少し起こして、Tシャツを剥ぎ取る。
えっ⁉
アルコールのせいで、状況を把握するのに時間がかかる。
目を凝らして見ると、
ピアスを激しく揺らしながら、
臣もTシャツを脱ぎ捨てている。
お互いに上半身ハダカのまま、
臣は俺を強く抱き寄せた…
あまりの衝撃で、体に電流が走る。
今まで何度も唇を重ねてきたが、
こんな風に体を重ねたことはなかった。
「は…なせよ…臣…」
「俺は…お前だけなのに」
「信じてくれないなら、こうするしかないだろ?」
また唇を合わせ、舌を絡ませてくる。
いつもしているのとは、まったく異なる激しい口づけ…
そんなことはしないって言ってたのに…
…あ…でもそうじゃないな。
どこかでこうなることを望んでたのは、俺の方かもしれない。
しばらく一方的で強引な愛撫が続き、
「はぁ…」と臣が一呼吸する。
やっと自由になった両腕を、
ゆっくり臣の首に回して言った。
「臣…ひとつになりたいの?」
「そうするしか…」
臣が答えた。
「そうなったとして…今まで通りに…歌える?」
「……」
返事はない。
きっと今まで通りってワケにはいかない。
だから、そこは…
絶対に越えちゃいけない一線なのに。
しばらく見つめ合った。
一瞬、険しい表情を浮かべ、
臣は意を決したように、また強く口づけをしてくる。
荒々しい生き物のように、
臣の舌が絡んでくる。
ダメだ…辛い…
無理やり臣の顔を引き離した。
「臣…聞いて…お願い」
「…な…に?」
息が荒く、声がうわずっている。
「どうしても俺と…そうなりたいのなら…俺達のあの部屋でしてよ…」
「……」
「ここではやめてくれ…」
「…別れた後が…辛くなるからさ…」
「……」
隆二は左腕で顔を隠している。
汗か涙か…目から光るものが落ちた。
長い沈黙の中、俺の息づかいだけが聞こえる。
隆二は、声が出そうになるのをグッと押さえているようだ。
「別れた後の話なんかすんなよ…」
絞り出すようにそう呟くと、
俺は隆二から離れ、ベットにうつ伏せになった。
二人でいるのに、
切なくて、孤独な時間が流れていく。
二人はそのままで朝を迎えた。
すっかり日も高くなった頃…
「隆二、大丈夫か?…帰るぞ」
そう言って臣はベットの横に立ったまま、よく冷えたペットボトルを俺の頬にくっつけた。
「ん…」
気分が悪い…
こりゃ完全に二日酔いだな。
「シャワーは家に帰ってからにしろな」
「ん…顔だけ洗ってくる」
「ほら」と手を差しのべてきて、俺を起こした。
一瞬ふらつき、臣にもたれかかる。
昨日のあのセリフ…怒ってるだろな?臣…
しばらく立ったまま無言で抱き合う。
俺は臣の左肩に顎を乗っけて、ようやく立ってる。
「洗面所までついてこか?」
あれ?優しい…
「大丈夫、一人で行けるよ」
そう言って臣の顔を見上げた。
「うわっ …お前…ひでぇ顔」
「目、腫れてるぞ!鏡見てみろ」
優しい笑顔で送り出された。
ふらふらと洗面所へ向かいながら思った。
臣…怒ってないのかな?
「ゆっくりでいいからな!」
キッチンの方からコーヒーメーカーのスイッチを入れる音が聞こえた。
鏡に写った自分の顔を見て、しばらく立ち尽くす。
うわっ…ホントだ!ひでぇ顔…
ん?…なんだ?このアザ…
入れたてのコーヒーを手に持ち、
広いリビングのソファーに腰掛けようとすると、洗面所から隆二の絶叫が聞こえてきた。
「なにこれーっ!?…キ…キスマークだらけじゃん…」
何も答えないで、片方の眉をひくっと上げて、コーヒーを飲み微笑んだ。
「明日の撮影どーすんの?これ…」
未遂だよ…未遂
理性の勝ちだ。
0コメント