臣隆妄想劇場⑥(修正版)
『同棲』
「臣、先に行くよ」
ベットにうつ伏せになり、眠っている臣。
上半身ハダカで、肩の筋肉が逞ましい。
VBAで出会った頃に比べたら、随分男らしい体格になった。
臣「ん?…もう行くの?」
隆二「うん」
臣「そっか…俺も起きなきゃ」
1DKのマンション。
狭い部屋に無理やり押し込められたセミダブルのベット。
1時間ほど前まで、
俺も臣の隣に寝ていた。
あの日…
「メンバー同士の恋愛は禁止です」
「今夜から二人に専属のマネージャーを付けて、送り迎えします」
「二人っきりで会うのは、今回のツアー終了まで禁止します」
嘘でしょ?
いつ気づいたの?
臣「ちょっと待った!何か証拠でもあるの?」
「臣くん、申し訳ないが弁解は一切受け付けません」
臣「……」
「幸いなことに、今の段階では私しか気づいてない様なので、今回は緊急措置を取ります」
「ツアーが終了したら、お二人でよく話し合いの上、今の様な関係を続けていかれるのなら、絶対に第三者に気づかれない様にして下さい」
臣「禁止って言っといて…見えない所でなら何しても構わないってこと?」
「理解できないな…」
「無理に引き離して険悪なムードになり、仕事に悪い影響が出るのも考えものです」
反論すら出来なかった。
「誰にも目に触れない所であれば、黙認します。方法はいくらでもあるはずです」
週を跨いでの、6日間のツアーが終了し、臣とよく話し合い、現在お互いが住む家の中間辺りで1DKのマンションを借りることになった。
二人っきりになれないのなら、一緒に住めばいい。
臣の提案だった。
どちらかが仕事で外泊の時以外は、ここに帰ってきた。
今までの様に、外やスタジオで接触する事は出来なくなったが、
家に帰れば必ず臣に会える。
これって、同棲になるのかな?
急な展開に、一番驚いているのは、
俺自身だ。
眠そうに目を擦りながら、ベットサイドに腰掛ける臣。
お揃いで買った、色鮮やかなナイキの短パンを履いている。
「隆二…ちょっと来て」
「ん?なに?」
お気に入りのキャップを被り、すっかり支度を整えてベットサイドに行くと、臣が俺の腰を引き寄せた。
ウエスト辺りに顔を埋める。
「臣…もう行かなきゃ」
まだ眠いのか、スネたようにしかめっ面をして下から見上げる。
臣「今日も夜まで会えないだろ?」
「だから…ん…」
上を向いて、唇を尖らせる。
隆二「臣って、甘えん坊だったんだね」
両手で臣の頬に手を添え、キスをする。
軽めに…と思っていても、臣が離れてくれない。
ヤベ…遅刻しちゃうよ…
できるだけ優しく引き離した。
「臣…臣ってば、また続きは夜にね」
「うん…」
「気をつけてな」
「ん…」
こういう時の臣は、全身に哀愁を漂わせ、捨てられそうになっている子犬の様だ。
後ろ髪を引かれるって、こんな感じかな?
仕事が終わると、先にマンションに戻り汗を流す。
小さめのソファで寛いでいると、鍵を開ける音がして臣が帰ってくる。
臣「ただいま」
隆二「お帰りぃ」
隆二「メシは?」
臣「ん?まだ…先にシャワーしてくる」
隆二「ん」
一緒に暮らすようになってから、がんちゃん達とも会う回数を減らしているようで、仕事が終わると何処にも寄らず、まっすぐに帰ってくる。
臣って家庭を持つと意外と真面目で、大人しい旦那になるタイプかも?
シャワーを済ませると、短パンだけ履いて首からタオルをかけ、
よく冷えた缶ビールを片手にこちらにやってくる。
ソファに座る俺の足の間に陣取り、
美味そうにビールを飲みながらTVを見る。
隆二「あれ?メシ食わないの?」
臣「うん…昼にたらふく食ったから、あまり欲しくない」
「それよか、またお願いね」
隆二「ん」
ドライヤーで髪を乾かしてやる。
甘え上手だな…こいつ。
「あ!忘れてた…」
急に臣が振り返る。
キスしようとして、眉毛を少し吊り上げる。
隆二「ん?なに?」
臣「スルメ…邪魔」
あっ…そっか!
おれ、さっきからスルメ食ってたっけ?
スルメを退けると、
臣の唇が俺の口髭の辺りまで丸ごと包みこんだ。
体が熱くなる…
隆二「最初は髭が痛いって文句言ってたのに…」
臣「そうだっけ?」
臣「あっ!ただいまって言ったかな?」
隆二「言ったよ」
臣「そっか…」
また前を向き、ビールを美味そうに飲む。
ここを借りて約2週間…
ほぼ毎日こんな生活を送っている。
二人っきりで会うことを禁じられたツアー中に、お互いの心に火がついた。
マネージャーは、あれから何も言ってこない。
臣の髪から、風呂上がりのいい香りが漂よってくる。
そんな何気ない日々が、
愛しくて、かけがえのないものになりつつあった。
『嫉妬』
しばらくは、平穏な日々が続いた。
ある日のこと。
LDHの専用ジムでトレーニング後、
休憩をしている俺に健二郎くんが声を掛けてきた。
健二郎「臣ちゃん、またでかでかと書かれとるで!」
健ちゃんが差し出した大手出版社の週刊誌を見ると、
《芸能界No.1のモテ男 熱愛発覚!?》
《大阪の熱い夜!》
と大きな見出しで記事が載っている。
臣「は!?…何だこれ?」
健二郎「また根も葉もないゴシップかいな?」
健二郎「まぁ、時間差でホテル出るとこ隠し撮りされてるみたいやから、どないでも後付け出来るわな」
臣「……」
健二郎「このペアリングってのも、たまたま被(かぶ)ったんか?」
いつも左手の薬指に着けている愛用のリング。
相手もまったく同じブランドのリングを、左手薬指にはめている。
それぞれの左手が大きく拡大され、掲載してあった。
健二郎「相手の女優さんて、映画で共演してた人やんな?」
臣「そうだけど…いつものことだよ」
あまりにもよく出来すぎていて、怒る気にもならない。
健二郎「そっか…でも、臣ちゃんのこと好きなファンが見たらショックやろな」
健二郎「また、たまたま同じホテルって…」
健ちゃんの話の途中で、ふと気になってスマホを手に取る。
臣「健ちゃんごめん!俺ちょっと急用思い出して…電話かけてくるね」
健二郎「おーっ!ごめんな、臣ちゃん。余計なお世話やったな!気にせんといてや!」
あいつ…大丈夫かな?
廊下に出て隆二に電話をかけるが、呼び出し音が鳴るだけで電話に出ない。
今日は午後からオフじゃなかったっけ?
なんだろ?
胸騒ぎがする…
何これ…?
臣と一緒に暮らすマンションで、
スマホを弄(いじ)る手が止まった。
ファンがインスタに上げた週刊誌の記事を真剣に見る。
壁に掛けてあるカレンダーに目をやると、記事と同じ日付の所に臣の字で『大阪』と書いてある。
確か半月ほど前に映画の舞台挨拶で、
4~5日地方に泊まりで行っていたことがあった。
この女優って…今度の映画で共演した人…
いつも大切に、左手の薬指に嵌(は)めているリング…
まったく同じものだ…
いつもなら気にも止めないスキャンダルも、今は状況が異なる。
俺たち…ただ一緒に暮らしているってだけで…
あいつとは、キスはするけど、
それ以上の深い関係じゃないし…
しばらく手を止めて考え込んでいた隆二だったが、スマホをテーブルに置き、乾燥機から出してきた洗濯物を綺麗にたたみ、ベットの上に置いた。
何かが…
隆二の中で弾ける音がした。
トレーニングの後、LDHの先輩と会食があり、隆二と同居するマンションに帰宅した頃には日付が変わっていた。
食事中も隆二のことが気になり、
何回か席を立ち電話を掛けたが、
相変わらず呼び出し音のみで出てこなかった。
はやる気持ちを押さえて、マンションの中に入ると部屋は真っ暗で、
いつもの場所に隆二の姿はなかった。
ベットの上を見ると、
二人でシェアしているVUITTONやGUCCIの
Tシャツが綺麗にたたんで置いてある。
ちょっと待てよ!
…こんなことで?
ジム用の荷物をソファーへ放り投げ、
スマホだけ手に取り、走って家を出る。
隆二!
こんなことで簡単に終わりにしないよな?
寝静まった街の中を、
隆二のマンションへと急ぐ臣だった。
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