『W旦那+(プラス)』 TAKAOMI47 三代目妄想劇場ショートストーリー
「送検前の被疑者に面会させるわけにはいきません」
母でさえ自由に面会することはできないので、弁護士を通してでしか娘に伝言を伝えることができない。
ましてや被害者が被疑者に面会など、常識では考えられない。
「俺たちの勘違いでした。訴えは取り下げます」
隆二が警察官にそう話すのを聞いて老母がへなへなと椅子に崩れ落ちた。
近くにいた臣が倒れないように手で支えた。
隆臣も老母の横にちょこんと座り、
「ばーば、だいじょーぶ?」と声をかける。
「それは…どういう意味ですか?」
「迷子になった隆臣を一時的に保護して下さっていたんです。俺らが連れ去りだと勘違いしてただけです」
「…そんな馬鹿な」
臣も言葉を発した。
「被害者が間違いだったと言ってるんです。
送検前ならこれで釈放されるはずです」
警察官が何か反論しようとした時、病室からスーツを着た男が外に出てきて間に入った。
「被害者のご家族が誤解だったと言ってるのなら、これ以上留め置くことはできませんな」
男の言葉を聞いて警察官は、
「署に連絡してきます」
そう言って持ち場を離れた。
「弁護士の先生ですか?ありがとうございます」
「…いや、私はなにも」
母は震える両手を合わせて、臣と隆二に涙で訴えている。
「…娘が罪を犯したのは事実です。どうか罪を償わせて下さい!」
隆二は老母のその手を取って、笑顔で答えた。
「大雨の中、外に居ればずぶ濡れになるところを…手厚く保護していただいて、本当にありがとうございました」
臣も母の肩を擦りながら柔らかな表情を浮かべて言った。
「息子に好物まで与えてくれて、清潔な衣類に着替えまで…本当に感謝します」
老母は声をあげて泣いている。
「じゃあ私も手続きがありますので、これで」
弁護士は立ち去ろうとしてまた立ち止まり、臣と隆二を交互に見て伝えた。
「これで面会は自由にできます。うわ言のように子供さんの名を呼ばれてます。早く会ってあげて下さい」
弁護士は足早に去っていった。
「…娘さんに会わせていただけますか?」
隆二が尋ねると、母はハンカチで顔を覆ったまま、何度も首を縦に振った。
つづく
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2018.09.18 02:04
2018.09.18 02:02
2018.09.18 01:59