『W旦那+(プラス)』第60~61話 (ネットカフェ)三代目妄想劇場
隆二「ヴァンパイアじゃないとして…男の精気を吸い取るオバケっていたっけ?」
ネットカフェの一室で、臣はスマホを、隆二はPCの画面を見ている。
臣(オバケって…)
隆二はいたって真剣な顔をしている。
臣「あるとしたら、妖怪の類いかな?」
隆二「21世紀に妖怪って…にわかには信じられないよね」
臣(オバケの方があり得んし…)
隆二「狭っ…臣、もうちょっと向こう行ってよ。密着し過ぎ」
臣「カップル席しか空いてなかったんだからしょうがねーだろ」
隆二「野郎二人でカップル席って…」
PCに向かって並んで座って、臣はじっと隆二の顔を見ている。
視線を感じながらも臣の方を見ないで、
「変なことすんなよ」と隆二が言う。
「今はそれどころじゃないだろ」
下を向いてスマホを弄りだす臣。
隆二(今は…?)
隆二は、臣の横顔を見て軽くため息をつき、またPCの画面に目を向ける。
ポチポチしていた手が止まり、隆二が目を見開いた。
隆二「臣…これ、ここ読んで見てよ」
臣「ん?どれ」
夢魔(むま)は、淫魔ともいい、夢の中に現れて性交を行うとされる下級の悪魔。
夢魔のうち、女性型の夢魔はサキュバスといい、睡眠中の男性を襲い、誘惑して精液を奪う。
どちらも、自分と性交したくてたまらなくさせるために、襲われる人の理想の異性像、
服を着ず下半身は裸で現れる。
そのため、その誘惑を拒否することは非常に困難である。
人の形態をとるだけでなく、標的となった人間の寝室には蝙蝠(コウモリ)に化けて侵入するともされている。
これらの姿を変える能力を剥(は)がした正体は醜い怪物とも語られている。
サキュバスは自身に生殖能力が無いため、
人間男性の精液を奪って人間女性を妊娠させ、繁殖しているとされる。
臣「悪魔ってか?シャレになんねーぞ…」
隆二「でもこのままじゃ、元通りの生活には戻れないし…」
臣「……」
隆二「疑わしきは…一つずつ潰していくしかないよ」
臣「やる気になってきた?」
隆二「もしこのオバケだとしたら、理愛ちゃんも操られている可能性もあるし」
臣「それは否定できないな」
臣「で?どうやって検証すんの?」
隆二「今から予約できる東京近郊のホテルあるかな?」
ポチポチとマウスを操作する隆二。
臣「えっ?計画が全然読めない…」
隆二「今回は俺に任せとけって」
臣「頼もしい…」
真剣に画面を見る隆二の顔近くに、臣も顔をひっつけて画面を見ている。
チラッと隣の臣を見る。
隆二(近い近い…)
隆二「臣!飲み物入れてきてよ」
臣「ん!俺もコーヒー入れてこよ」
部屋の外へ出て行く臣。
隆二(近いんだよ…ったく)
隆二(おっ!空きがあった)
ホテルの予約を完了する。
飲み物を両手に持ち、戻ってきた臣に、
「臣!ちょっと耳貸して」
「ん?内緒話にする必要あんの?」
「オバケが聞いてるかもしんないじゃん」
隆二が言うと、どうしても漫画に出てくるような可愛い種類のオバケしか頭に浮かばない。
一瞬臣がニヤっとして、
「隆二!後ろっ!」
「ひゃあ‼︎うそ!うそっ!どこ?」
臣の腕にしがみついてくる。
「ちょっと!静かにして下さい‼︎」
すぐ隣のスペースから男の声がした。
お互いの口を塞ぎ、固まる臣と隆二。
しばらくして臣がそっと手を離すと、隆二が恨めしそうな顔をしている。
「機嫌直して…隆子ちゃん…」
臣が笑顔で隆二の頭をポンポンと撫でて、ドリンクを手渡す。
「お前…いつかぶっ飛ばす…」
「ごめんごめん…」
「耳貸せっ!」
「はいはい…」
アグラをかいて座る臣の耳元で、隆二がボソボソと計画を告げる。
妖怪だの悪魔だの事態は深刻にもかかわらず、臣は楽しそうな表情をして目を瞑(つむ)り、隆二の話に耳を傾けている。
時々、隆二のヒゲが耳に触れてくすぐったい。
長い1日が終わろうとしていた。
End
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