『W旦那+(プラス)』第58~59話 (社長宅前)三代目妄想劇場

「隆二!待てよ!」


臣は手を伸ばして隆二のショルダーを掴む。


隆二は立ち止まったまま、こちらを振り返らずにいる。


「臣…惚れた女性相手によくあんな大胆な行動とれるよね…」


「結論は早い方がいいだろ?」


「そういうとこ…変わんないよね」


「……」


「何もなかったから良かったけど、下手すりゃ人権問題だよ。」


「また…大袈裟なんだよ」


隆二は、くるりと振り返り、臣の顔を見て、


「元はと言えば、俺が変な夢の話するからだよね…臣まで巻き込んで悪かったね」


「なに?もう探偵ごっこやめんの?」


「彼女はヴァンパイアじゃない。はっきり結論も出たし…」


「…あの暗号みたいなのは?」


「タッチミスしたんだよ、きっと…」


「二晚とも?」


「携帯ゲームにでもハマってんじゃない?」


臣は答えない。


理愛に限ってそんなことはあり得ない。


隆二もそれは十分にわかっている。


「俺ら二人共精気を無くしてたのは?どう説明すんの?」


「たまたま疲れが出たんだろ?」


じっと隆二の目を見ていた臣は、


「ちょっと付き合え」


隆二のショルダーを持ち、引っ張って行く。


「また…どこ行く気だよ」


社長の邸宅横の路地を、庭がある方へと入って行く。


「この上不法侵入とかやめてよ、臣…」


「しっ!」臣が人差し指を立てる。


庭に植えられた木々の間から、理愛のいるゲストルームが見える。


まだ部屋の電気はついていて、レースカーテンの向こうに、ベッドに腰掛けたままの理愛が見える。


「理…」隆二の口を塞ぐ臣。


「隆二、いい加減にしろよ」


臣に注意され、隆二は自分で自分の口を押さえる。


理愛はしきりに、手にしたスマホを弄っている。


「がんちゃんにメールしてんじゃない?」


臣は何も言わず、剛典にラインを送る。


「理愛ちゃん、スマホのタッチめちゃ早い…」


「これ見てみ!」臣が自分のスマホを隆二に見せる。


剛典とのラインのやりとりが画面に出ていて、理愛とはアドレス交換していない…と
返信が表示されている。


隆二「がんちゃんが嘘言ってるとも思えないし…」


臣「じゃあ誰と?」


隆二「やっぱゲーム…」


臣「アホか」


急に冷たい風が吹き始め、月が雲に隠れた。


隆二「さむっ…」


臣は、すぐに隆二の肩を持ち、ゆっくり撫り始める。


何か言おうとする隆二を臣が止めた。


理愛がカーテンを開け、窓を全開にする。


暗闇にゲストルームが明るく浮かんで見える。


次の瞬間、どこからともなく黒い煙のような物がただよってきて、ゲストルームの窓付近で真っ黒な塊となった。


理愛は何も言わず、その塊をじっと見つめている。


(なんだ?あれ…)


次の瞬間、その塊は細い帯状になってゲストルームの中へ吸い込まれていった。


同時に素早く窓とカーテンを閉める理愛。


ゲストルームの照明も消え、真っ暗になる。


二人が言葉を失い、その場で固まっていると、冷たい風もピタッと収まり、月明かりが照らし始めた。


「おみ…見た?今の…」


「ああ…」


臣が続ける。


「やっぱ…ただ事じゃないよ…」




End


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