『W旦那+(プラス)』第1~ 2話(理愛の店) 三代目妄想劇場
「理愛ちゃん」
店先の小さな窓を開けて、隆二が顔を出した。
「オーナー…いらっしゃいませ」
カウンターの中から、柔らかな笑顔を見せる。
理愛と呼ばれたこの女性。
世の女性本来の特徴である、ふっくらした丸みのある体型ではない。
細い腰にしなやかで長い手足、首も長く透き通るような白い肌をしている。
少し緑がかった銀色の髪が腰まで伸び、全体にゆるいウェーブがかかっている。
胸の厚みもないので、一瞬見た目には男女の区別がつかない。
瞳の色は、深海を思わせる深い青。
長い睫毛と薄いベージュ色の眉、唯一ふっくらした唇は美しいピンク色をしている。
柔らかいベージュ色のシルクシャツを羽織り、カーキ色で薄手のストレッチパンツを履き、薄いグリーンのエプロンを着けている。
4坪ほどの大きさで、カウンターのみがある
「カフェ&バー リアの店」
小窓はテイクアウト用の接客に使用している。
その窓から上半身だけ出し、
「俺の水、まだストックあったっけ?」
「手持ちの全部飲んじゃって…」と隆二が言う。
「はい、すぐお持ちします」
音も立てず、しなやかに冷蔵庫へ向かう。
「今日はショップにいらっしゃってたんですか?」
特に興味も無さそうに理愛が聞く。
「うん…新商品発売の初日でね」
「オーナーお一人で?」
「そう」
「何か召し上がりますか?」
「今からジムだからいいや。また夜に覗くね」
「はい…」
あまり抑揚のない声だが、とても美しく耳に残る。
「理愛ちゃん…何か思い出した?」
「いえ…なにも」
「そっか…焦らなくてもいいよ」
隆二が人懐っこい笑顔を見せる。
理愛はなにも答えず、隆二が好んで飲む、水の入ったペットボトルを手渡す。
理愛の細い指先を包むように受け取り、
「行ってくるね」と言って、軽くキスをする隆二。
理愛は、特に表情を変えることもなく、隆二を見送った。
中目黒にある「カフェ&バー リアの店」
昼はテイクアウトのみの営業で、夜は会員制のバーになっている。
カウンターに7席のみの小さな店舗だ。
夕方近くになって、臣がフラッとやってきた。
「いらっしゃいませ…オーナー」
理愛が静かに微笑む。
「理愛、コーヒー入れて」
「かしこまりました」
営業中は長い髪を後ろで束ねていて、淡いグリーンのバンダナを結んでいる。
なにか動作を起こすたびに、全身が匂い立つよう…
麗人という言葉があるが、こういう人のことをいうのか…
そんなことを思いつつ、カウンターの椅子に腰掛け、理愛をじっと見つめる臣。
理愛はコーヒーを立てながら、同時にカップを温めようとして、誤って指に熱湯をかけてしまう。
「理愛⁉️大丈夫?」
すぐにカウンターの内側に回り込み、手を取る臣。
「あ…はい、平気です」
「平気なことないだろ?赤くなってる…」
水道を目一杯出し、しばらく黙って理愛の指を冷やし続ける。
「オーナー、もう大丈夫ですから」
「…冷たい手だな…理愛」
そう言って、臣は自分の頬に理愛の手を持っていく。
「……」
「後は自分でするから、休憩してていいよ」と臣が言う。
「はい…そうします」
すぐにエプロンを外す。
エプロンを持ったままの理愛の手を掴み、自分の方に引き寄せ、
「理愛は休憩の度にいちいちエプロン外すの?」
「いけませんか?」
「いや…理愛がそうしたいのなら…」
と言って、軽くキスをする臣。
理愛は、特に驚いた様子もなく、
「オーナー、外から丸見えです」と言う。
臣はシンクに腰掛け、理愛の細い腰に手を回している。
臣も、特に気にする様子もなく、
「ほんとだ。カーテンつけよっか?理愛」
「隆二さんがなんと言われるか…」
「アイツはほっときゃいいよ」
臣は優しく理愛を抱きしめる。
店内に入れたてのコーヒーの、いい香りがたちこめてきた。
End
0コメント