『温泉旅行⑦』(続・臣隆妄想劇場44)ショートバージョン
客室は洋室と寝室の他に和室があり、そこで夕食の懐石料理が用意された。
舟盛りや鮑の踊り焼き、伊勢海老鬼殻焼き、金目鯛の姿煮などを堪能した。
酒もほとんどセーブすることなく、シャンパンから始まり、生ビール、地酒、日本酒の熱燗も注文した。
臣はお猪口(ちょこ)じゃ足りないと、グラスに日本酒を注ぎ飲んでいる。
隆二もかなりの量を飲んでいるが、臣ほどではない。
向かい合った二人の間で、仲居が鍋のシメの雑炊を作っている。
向かいの臣を見ると、少し赤い顔をして、口元が緩んでいて、ウルウルした目で隆二を見ている。
隆二(うわっ…これ、ヤバイっしょ…)
(過去1の甘えん坊モードに入るんじゃねーの?)
一緒に暮らしてから発覚したことだが、臣は相当量の酒を飲むと上機嫌になり、隆二に甘えてくる。
給仕する仲居越しにジッと目を見ていると、
臣は、(なに?)と声に出さず、口だけを動かした。
隆二が口をへの字に曲げて、やれやれという表情を見せると、臣は口をすぼめて投げキッスを送ってきた。
隆二(まだ仲居さんいるのに…)
「お待たせしました。お入れしますね」
隆二「あ…あとは俺らで勝手にやるので、大丈夫です」
「そうですか。では失礼致します」
仲居が退室した途端、テーブルの向こうで臣が手招きしている。
隆二(キター!)
隆二「酔ってんでしょ?」
臣「酔ってなんかいねーよ」
隆二「嘘ばっか…目が座ってるよ」
臣は「いーから、隆二くん‼︎おいで」
隆二「やだね…俺まだ雑炊食うし」
臣「冷たっ…」
隆二「臣は?雑炊食べるっしょ?」
臣「…そんな冷たい子に育てた覚えはない…」
隆二「お前に育ててもらった覚えはねーわ」
隆二「食うの?食わねーの?」
臣「いーから雑炊の前にちょっとこっち来なさい」
隆二「今食べ頃だから行かねーよ」
雑炊をお茶碗に入れる。
隆二「臣、食わないんだね?」
臣「あー…冷たい嫁…鬼嫁だ…」
隆二「嫁ちゃうし…」
熱々の雑炊をフーフーして食べる隆二。
「うめーっ♡」
臣「自分だけ…いーんだ…ヒック」
隆二(しゃっくりしてるし…)
黙って雑炊を食べながら臣を見ていると、
「うちの嫁はご飯も食べさせてくれない…ひっく」
臣はそう言って浴衣の袖を目に当てて、泣いたフリをしている。
隆二「嫁言うな!ついだげるから臣も食べな」
お茶碗に臣の分を入れて目の前に置くと、
臣「りゅうじくん…おれ、お判りのよーに酔ってて、熱さとか麻痺してわかんねーから…ひっく」
隆二「だから?」
臣「フーフーして食べさせて…ひっく」
隆二「子供かっ!」
隆二(始まったよ…)
続く
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